二年で五〇兆円「強制貯蓄」の現実

長引くコロナ禍で外出自粛が続き、将来への不安も重なったことで、人々の消費意欲もすっかり冷え込んでいる。政府はコロナ対策として、二〇二〇年に国民一人当たり一〇万円の特別定額給付金をばらまいたのをはじめ、さまざまな給付金で消費を喚起しようとしたが、そのほとんどが将来に備えた貯蓄に回っているのが実状だ。

加えてコロナの感染拡大を受けて、緊急事態宣言などの行動制限が課せられたことで、外食や会食の機会が激減することとなった。さらには、レジャーや観光旅行に出掛ける機会もほぼ皆無という状況になってしまったのだ。そうなってくるとその分野での個人消費も激減し、個人の手元にはそうしたお金が滞留することとなる。

日銀によると、そうした「半ば強制的に貯蓄された所得」は「強制貯蓄」と定義され、その額は二〇二〇~二〇二一年の二年間で五〇兆円にものぼると試算されている。

しかも、強制貯蓄はまんべんなく広く浅く貯まっているわけではない。日銀によれば、その大部分を占めるのは中~高所得者層。「世帯年収八〇〇万円以上」が半分近くを占め、低所得者層の強制貯蓄は全体の一割ほど。つまり、強制貯蓄五〇兆円のうち、約九割の四五兆円は中~高所得者層に偏在しているのだ。

須田慎一郎『一億総下流社会』(MdN新書)

見方を変えれば、いくら給付金がばらまかれても、本来の支援の目的である低所得者層は生活費の補填ほてんで精一杯であり、貯蓄に回す余裕もない。一方で、比較的余裕のある世帯はますます貯蓄を増やせるというチグハグさが際立っている。

だからだろう、「富の偏在」をあちこちで目にするようになった。二〇二一年末に東京・銀座にあるハイブランドの「ルイ・ヴィトン」を筆者が取材で訪れると、長蛇の列を目の当たりにした。店員に入店までの時間を尋ねると「四〇分待ち」だという。

奇しくも先述の京都・清水寺で拝観料を支払うまでの待ち時間と同じだが、お金の使い方はまったく異なる。清水寺付近の土産屋ではほとんどお金が落ちないのに、ルイ・ヴィトンの店では三〇~四〇万円もするような超高級バッグが飛ぶように売れているのだ。

しかも、取材に訪れたのは一二月だったのだが、店頭に置かれていたのは季節を先取りした春夏ものだった。「こんな寒い時期に春夏ものが売れるのか?」と思ってしまうのだが、それらもまた飛ぶように売れ、なかにはすでに売り切れていたものもあった。

お金を持っている人たちは「とにかく使いたくて使いたくて仕方ない」のだ、ということを改めて痛感させられたシーンだった。

そうしたシーンは、まだある。回転寿司などとは真逆で、なかなか予約の取れない超高級寿司店や天ぷらの名店などはコロナ禍でも相変わらず、予約困難であることが多い。来店した際に、次の来店予約をしておかないとなかなかありつけないシステムなので、そもそも常連になれるような富裕層でないと予約は取りづらい。

あるいは、二〇〇〇万円は下らない超高級腕時計が売れていたり、最近では、フェラーリなどの超高級車を街で見かけたりする機会も増えた気がする。

富める者がより富む――。それは日本も例外ではない。

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