政治マーケティングを怠ると民意は離れる
安倍さんのあとを引き継いだのは菅義偉さんです。僕は、菅さんのほとんどの政策に賛成でしたし、日本にとって必要な改革を多く実行してくれました。ただ、菅さんは周囲に相談する前に自分で決めてしまうきらいがありました。
それが、有権者の多くが納得している方向性であれば問題はありません。しかし、賛否が激しく割れたときも、菅さんは自分で結論を先に決めてしまって官僚をビシバシ動かし、どんどん進めてしまいます。
そのため、新型コロナ対応にしてもオリンピック開催にしてもGoToトラベルにしても、専門家から反対意見が出てしまうことになりがちでした。
菅さんは決断する前に、テレビカメラの前で専門家としっかりと議論を行えばよかったのです。そうすれば、その議論の様子が世間に伝わり、メディアであーだこーだという議論が始まる。その様子をしっかり見ることがまさに政治マーケティングです。
自分の思うような世間の反応になっていなければ、専門家とさらに公開議論を深めて、世間の反応を変えるように努める。
それでも世間の反応が自分の考える方向にならなければ、そこはいったん世間の反応に合わせた決定を行い、自分の考えについてはのちに再チャレンジする。これが世間の支持を離反させない政治マーケティングの技です。
世間に議論させる「検討使」岸田政権の手法
その点、岸田さんは一部で「検討使」と称されるほど、まずは「検討します」「よく考えます」と言って、その場で自分の意見を述べることに慎重な姿勢を見せます。そしてメディアにおいて専門家たちに賛否両論丁々発止の議論をやらせます。
自分は当事者として議論に参加しませんが、政府情報を小出しにメディアに流して観測気球を上げ、さらに議論させます。世間の意見がまとまり始めたところで、その方向に沿った決断を下します。
岸田さんはこのように、メディアにおける議論を通じての政治マーケティングを駆使して難題について決断を下しているので、世間から強烈な反対論が出てくることを防ぎ、支持率も高水準を維持していました。
日本を訪れる外国人観光客の受け入れ再開にあたり、まずは受け入れ人数をわずか50人からスタートして、メディアに議論させながら人数を徐々に増やしていくやり方も、岸田さんらしい政治マーケティングでした。
早々に国葬を決定し支持率が急落
ところが、その後岸田政権は支持率を急落させました。
22年7月の参院選の投開票日直前に凶弾に倒れた安倍元首相の衝撃的な事件をきっかけに日本中で大騒ぎとなった旧統一教会問題、そして安倍さんの葬儀を国葬にした問題によってです。この2点について岸田さんは政治マーケティングを怠りました。
安倍さんを支持する自民党国会議員の声に押されて、岸田さんは早々に国葬を決定。その後、安倍さんと旧統一教会の関係が取り沙汰され、自民党と旧統一教会の関係の問題に発展し、加えて旧統一教会の高額献金問題などが、日本中を騒がせることになりました。