事故から5年が経過しても裁判は続いている

少女には何の落ち度もない、痛ましい事故です。それなのに、なぜ障害があるという理由だけで、「命の値段」は障害のない人の半分以下になるのでしょうか。

両親らは2020年1月に、運転していた男性と当時の勤務先を提訴。「逸失利益の減額は障害者差別にあたり、到底納得できない」として約6130万円の損害賠償を求めました。この裁判には、視覚や聴覚に障害のある弁護士たちも弁護団に加わり、被告側の差別的な主張に対して異議を唱えています。

裁判の途中で、被告側は当初主張していた算出基準となる基礎収入「女性平均賃金の40%」(年153万520円)を、「聴覚障害者の平均賃金」(年294万7000円)」に変更し、逸失利益を算出しなおしてきました。このとき多くのメディアは「主張を撤回」と報じましたが、それでも全労働者の平均賃金の60%にすぎませんでした。

2023年2月27日、大阪地裁は判決で「少女の逸失利益を全労働者の平均賃金(年497万2000円)の85%とする」とし、被告側に約3800万円の賠償を命じました。「女性の平均賃金の40%」という被告側の当初の主張がいかに低いものであったかがよくわかると思います。

しかし、両親らは、全労働者の平均賃金から15%を減額した一審の判決に納得できず控訴。事故発生からすでに5年の歳月が経過していますが、高裁での裁判はさらに1年以上続くとみられています。

写真=遺族提供
遺族側は横断幕を掲げて大阪地裁に入った。

「片目失明でも10年で慣れる」と示談を迫るケースも

自動車保険の「対人・対物無制限」は、文字通り支払われる保険金の限度額に制限がないことです。もちろん法律上の損害賠償責任を負った範囲内で、被害者に保険金が支払われます。

ただ、聴覚障害女児のケースを見てもわかる通り、「命の値段」の査定においては非常に厳しいのが現実です。加害者側(実質的には損保会社)は、かなり悪質な事故であっても、一方的な理由をつけて可能な限り支払額を少なくしようとしています。

死亡事故ではありませんが、過去にこんなケースを取材したことがあります。

事故で片目を失明した大学生(当時19歳)に対して、加害者側の保険会社(東京海上火災)は「片目失明でも10年で慣れる」と、労働能力喪失期間を35年分カットして逸失利益を計算し、200万円での示談を迫ってきたのです。

しかし、疑問を感じた被害者は弁護士に相談。その結果、過去の判例などをもとに全期間の逸失利益が認められ、結果的に既払い金+4800万円の支払いとなったのです。

もし、この被害者が何も知らず、示談書に判を押していたらどうなっていたのでしょうか。根拠のあやふやな低額提示をされた被害者の中には、闘う術を知らぬまま、あるいはその気力もないまま、示談に応じているケースが少なくないのが現実です。