「男だってつらい」「冤罪もある」のセリフがリアル
【アル】男性が女性を穴扱いしてるみたいに、フェミ彼女はスンジュンを棒扱いしてる場面はありますね。
【田嶋】「言わないで察しろ」って昔の男の態度をそのまま男に返してる。男が女にやってきたことを可視化させたかったのかな。
【アル】ミラーリング(*1)だと思います。スンジュンが「男だってつらいんだよ」と返したり、性暴力の話のときに「でも冤罪もあるよね」と返したり、リアルすぎてめまいがしました(笑)。めまいしながらも「あなたは交通事故の被害者に向かって“でも当たり屋もいるよね”と言うのか?」と返せるといいんですけど。
【田嶋】そうやって意見を交わせばいいのに。
【アル】でも彼女がルッキズム(*2)の本を渡しても、スンジュンはちゃんと読まないですよね。自分から学ぼうとする姿勢がまったくない。
【田嶋】それでも、ネットで絡んでくるような知らない男じゃなくて、彼氏でしょ。だったら説明してあげればいいのにって思った。彼女がどう説明するかを私は読みたかった。
【アル】たしかに彼女とスンジュンがもっと本気でぶつかり合っていれば、違う結末になっていたかもしれませんね。ただ作者はハッピーエンドにしたくなかったんだと思います。それだとリアルじゃなくなるから。
【田嶋】こんな男社会の生き方を絵に描いたような男には、ちょっと説明するくらいじゃハッピーエンドにはならないよ(笑)。
狂っているのはどっちなのか
【アル】スンジュンは最後まで彼女の“偏った思想”を変えようとしてましたよね。「昔は普通の女の子だったよな」と念仏みたいに繰り返して「偏った思想に洗脳された彼女を救い出す!」とヒロイズムに酔ってる。そんな男と対話しても無駄だ、と諦める彼女の気持ちはわかります。
【田嶋】女の人と男の人は見えてる世界がぜんぜん違うから、ちょっと言われたくらいではわからないよ。2〜3回でいいから言葉を尽くして説明したらよかったと思う。
【アル】『僕の狂ったフェミ彼女』について「男と女、狂っているのはどっち?」というコラムを書いたんですよ。そしたら読者の女性から「夫にコラムを読ませたら自分で本を買ってきて、本を読んだ後に“今までごめん、僕が間違ってた”と謝ってきた」という報告をもらいました。
【田嶋】すごい、ちゃんと反省して謝れる男の人もいるんだ。いい話だね。
【アル】スンジュンよりマシな男もいると(笑)。私が一番ムカついたのは、彼女が弱ったときほどスンジュンが嬉しそうなところです。頼りになる彼氏アピールができる! と彼女のピンチをチャンスと喜ぶなんて、おまえの脳みそは肥溜めかと。
【田嶋】「守りたい」は言い換えれば、「自分をおびやかさない弱い女性、自分で立てない無力な女性でいてほしい」ってことでしょ。パートナーのためじゃなくて、自分に酔ってるんだよね。
*1【ミラーリング】女性に対してされる差別的言動の異常性を伝えるために、男性に対して同様の行為をすること。
例:女性に対して「おっぱい大きいね」と言う→男性に対して「ちんこでかそうだね」と言う。
*2【ルッキズム】外見に基づく差別。容姿差別。