「ブレグジット」にも大きな影響
2016年の米大統領選後、ロシアの選挙介入が明らかになった以上、「他の国や選挙でも同じようなことが行われていたのではないか」と考えるのは当然のことです。
米大統領選より少し前の2016年の6月には、イギリスがEUから離脱するか否かを問う国民投票が行われました。結果、イギリスは離脱を選び、その選択は「ブレグジット」とも呼ばれましたが、ここにもロシアの介入があったのではないか、という疑いが浮上したのです。
西側の結束を弱めたいロシアとしては、イギリスがEUから離脱してくれれば好都合です。さらにNATOが弱体化すれば、ロシアにとっての目の上のタンコブがなくなるに等しい。やらない手はありません。
イギリスで調査したところ、2014年のスコットランド独立を問う住民投票にロシアが介入したことはほぼ事実であるとしたものの、2016年のEU離脱を問う国民投票に関しては「ロシア介入の兆候はあった」とするもので、介入を断定することはできなかった、という報告がなされています。
暴かれ始めたロシアの手口
しかし報告時の首相はEU離脱派だったボリス・ジョンソンでしたから、「故意に簡素な報告にとどめたのではないか」との指摘がくすぶりました。一説には、ブレグジット用にロシアが作成したFacebook用の偽アカウントは15万件を超えるとも言われています。
そこで改めて英議会下院の情報安全保障委員会が調査した結果が2022年7月に公表され、「英政府はロシアの脅威を甚だしく見くびり、必要な対応を怠った」と結論付けられました。
ロシアの介入、影響力を及ぼそうという工作があったのに、イギリス政府は対処しなかった、ということです。
ただ、こうしたロシアのネット言論に対する介入が、常にロシアにとって都合のいい結果をもたらすわけではありません。
2017年のフランス大統領選でもロシアは米英に対するのと同じように介入を試みました。ロシアとしてはリベラルなマクロンではなく、右派でプーチンを評価していたマリーヌ・ルペンを大統領にしたかったのです。
ロシアはやはりサイバー攻撃で盗み出した本物のマクロンのメールに、偽情報を混ぜた形で、マクロンがケイマン諸島に秘密の銀行口座を持っているかのような情報をネット上にリークしたのです。リークがあったのは投票の2日前。選挙前の報道規制が始まる直前でした。
ところがフランスでは、英米のようにはうまくいかず、マクロンが当選したのです。既に英米2つのケースにおけるロシアの影響が取りざたされていたことが奏功したようです。