座っているだけで相手に大ダメージ

日頃から「ロシア・トゥデイ」(RT)や「スプートニク」のような政府系メディアがロシアの立場をニュースの形で発信していますが、「ノーヴァヤ・ガゼータ」のような独立系メディアとは違い、あくまでも政府広報に近い形の発信を行っています。

そのため、「ロシア・トゥデイ」や「スプートニク」を報道機関ではなく、プロパガンダ機関とみなす人たちもいます。

こうした情報戦でとりわけ狙われるのが選挙です。報道の自由がある国では、様々なニュースや意見、評論が発信されます。特に選挙時には多くの人が政治に関する話題やニュースを求めますし、自ら意見を発信します。

そこでロシアは、そうとわからない形でロシアに都合のいい情報を流すことで、選挙結果にも影響を及ぼせると考えたのです。

以前であれば、スパイが標的国の中に親ロ派を作り、ロシアに都合のいい言説を流させるという工作を行っていたところですが、ネット時代にはロシアから偽情報を流すだけである程度の影響を及ぼすことができるというわけです。

ここでも以前なら標的国に潜入したスパイが担っていた任務が、ネットで代替が利くようになったという変化が起きています。

「プーチンは天才だ、素晴らしいリーダーだ」

最も大きな問題になったのが、トランプが大統領に選出された2016年11月に投票が行われたアメリカ大統領選です。

ドナルド・トランプ氏(写真=CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)
ドナルド・トランプ氏(写真=CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

アメリカでは日本以上にFacebookのユーザーが多く、ロシアはアメリカ人を装った架空のアカウントを大量に作り、トランプの対立候補だったヒラリー・クリントンの悪口や批判、「悪魔崇拝だ」「小児性愛者を支援している」といったフェイクニュースを書き込み、拡散させました。

ヒラリーは国務長官時代に特にロシアに厳しい態度を取っていたので、ロシアとしてはヒラリーに当選されるのは都合が悪かったのです。一方、トランプは不動産業でロシアと接点があるだけでなく、「プーチンは天才だ、素晴らしいリーダーだ」とほめそやしていました。

ロシアとしてはトランプが大統領になる方が、都合がよかったのです。そこでロシアはアメリカの民主党の上層部のメールや選挙資金に関するデータをサイバー攻撃によって盗み取りました。