選挙後に明らかになったこと

その中で、ヒラリーが国務長官時代に私用メールを使って機密情報をやり取りしていたことが発覚し、トランプは猛烈にヒラリーを批判しました。

確かにそれ自体は問題と言えますが、メールの流出がロシアのサイバー攻撃によるものだったこと、それも選挙結果をロシアに都合のいい方に誘導しようという意図から行われたことは、さらに問題です。

しかしそうしたFacebook上の書き込みが、ロシアが作った偽アカウントによるものだったこと、ヒラリーのメールを暴露したのがロシアの仕業だったとわかったのは、選挙が終わった後のことでした。

結果としてロシアは、トランプ選出という、自らに都合のいい選挙結果を得ることができたのです。しかもこの時には、トランプ陣営もSNSを使って対立候補の支持低下や自分たちの支持を広げる戦略を実行していました。

トランプ陣営の選挙戦略を主導した政治コンサルタントのスティーブ・バノンは、イギリスの選挙コンサル会社であるケンブリッジ・アナリティカと組んでFacebookのデータを大量に購入し、SNS上でビッグデータを使った効果的な宣伝を展開したのです。

結果的にバノンとロシアのネット戦略は互いに相乗効果を生んだような形になりました。

いまでも影響は続いている

問題は、これが「結果的に」生まれた相乗効果だったのかということ。つまり、トランプ陣営とロシアが共謀した可能性があるのではないかという疑惑が選挙後に浮上すると、アメリカは大騒ぎになりました。

この疑惑はニクソン大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件になぞらえ、「ロシアゲート」と呼ばれています。疑惑の捜査に当たったのはFBIですが、トランプ大統領は捜査を始めた時期にFBI長官を務めていたジェームズ・コミーを解任してしまいます。明らかな捜査妨害です。

しかしコミーの下にいたFBIの幹部が、ロバート・モラーを特別検察官に据えて調査させました。結果、共謀の事実ははっきりしないものの、ロシアの介入は認め、2018年2月にロシア人とロシアの3団体を起訴。団体にはロシアのIRA(インターネット・リサーチ・エージェンシー)も含まれます。

こうした団体を通じてロシアが流したヒラリー批判の情報を、バノンが代表を務めていた右派サイト「ブライトバート」などが掲載、さらに匿名掲示板やSNSが広げたことで、トランプに有利なフェイクニュースが拡散したのです。

偽の情報を信じきってしまったトランプ支持者への影響は2016年の大統領選にとどまらず、2020年の大統領選でトランプが敗退すると「選挙は盗まれた」として不正選挙を訴えるようになります。そして2021年1月6日、米議会に突入し、死者まで出す大事件に発展したのです。