「上を目指す」という果てしのないゲーム

わたし自身も以前、「比較バイアス」と「自己中心性バイアス」に支配されていた時期がありました。競争社会のなかで、まわりを蹴落としてでも地位と成果を得ようと思っていました。いい大学を出て、たくさん稼いで、まわりよりも上に行こう、と。

ただそういう生活は気もちのよいものではありません。成果は出ても、また上を目指し、新しい成果が出たら、また目標を立てる。果てしのないゲームをしている感覚でした。

達成したとき一瞬はいい気もちになりますが、その気もちは長続きせず、また上を目指すような毎日。そんなとき、わたしはある人をテレビで目にしたのです。

それが、ハリウッド俳優のマシュー・マコノヒーさんでした。彼が映画「ダラス・バイヤーズクラブ」でアカデミー賞を受賞した際のちょうどスピーチのときでした。

マコノヒーさんが演じたのは、余命30日と宣告された主人公のエイズ患者。21キロもの減量に挑み、見事、アカデミー賞主演男優賞を受賞します。

そのトロフィーを授与されたあと、マコノヒーさんはこうスピーチしたのです。

過去の自分と比べて、いまの自分・未来の自分はどうか

マコノヒーさんは、ずっと昔から追い求めていたヒーローがいるというのです。それは「10年後の自分」。15歳のときから彼は10年後の自分を追い求めて、近づこうと努力してきたそうです。

写真=iStock.com/Laikwunfai
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つまり毎日、毎週、毎月、毎年、ヒーローは10年後にいて、追いつくことができない存在。そして、その10年後の姿をずっと追い求め努力してきた結果、マコノヒーさんはあの授賞式の壇上に立つことができたのです。

感動しました。

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比較するのは他人や周囲からの評価ではなく、10年後の未来の自分。比較するものを変えるだけで、こんなにも自分に対する考え方が変わるんだと心から気づけた瞬間でした。

わたしはそのとき、新しく素晴らしい考え方に触れることで、「自己中心性バイアス」がなくなってしまったのです。もちろん、完全ではありませんが、バイアスが崩壊する大きなきっかけになったことは事実です。

そして、ビジネスからスポーツ、恋愛までさまざまな分野でうまくいく人たちの研究を通して、わたし自身が一番変わったように思います。人と比較するよりも、自分を成長させて人のために尽くそうとする考え方に触れることができたからです。

誰かとの比較では、わたしたちは幸せになれません。

過去の自分と比べ、いまの自分はどうか?

ここから先の未来の自分はどうなっていくか?

その変化と成長に目を向けることで、「比較バイアス」や「自己中心性バイアス」の過剰な働きから自由になることができます。

※1 自己中心性バイアス Ross, Michael,&Fiore Sicoly,“Egocentric biases in availability and attribution.” Journal of personality and social psychology, 1979, Vol. 37(3) p.322/ Greenberg, Jerald.“Overcoming egocentric bias in perceived fairness through self-awareness.” Social Psychology Quarterly, 1983, p.152-156.
※2 女性より男性のほうが自己中心バイアスが強い Tanaka, K.,“Egocentric bias in perceived fairness: Is it observed in Japan?” Social Justice Research, 1993, Vol.6(3), p.273-285
※3 高級車に乗る人は交差点で歩行者のために止まってくれない(エリート効果) Piff, P.K, et.al.“Higher social class predicts increased unethical behavior”, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2012, Vol.109(11), p.4086-91
※4 バイリンガルは自己中心性バイアスが低い Rubio-Fernández & Paula; Glucksberg, Sam “Reasoning about other people’s beliefs: Bilinguals have an advantage”, Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 2012, Vol. 38(1), p. 211-217

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