大風呂敷を広げた割に大したことはなく、この程度で国会を堂々と欠席しながら高額の歳費を手にするのは許されるのかという「期待ハズレ」感が広がり、既存政党から逆襲される隙をつくったのだ。
仮にガーシー氏が国政を揺るがすスキャンダルをドバイ発で次々に暴いていたら与野党は「言論弾圧」との批判を恐れて手出しできなかっただろう。
これまで週刊文春に吸い上げられてきた政界スキャンダル情報がガーシー氏の元へ殺到し、新たな追及システムが出来上がった可能性もある。野党やマスコミのふがいない権力追及よりもよほど迫力があったかもしれない。
結局、期待ハズレ
もちろん「たった半年」で成果を上げることを期待するのは酷だ。私も朝日新聞特別報道部で調査報道を手掛けたが、スキャンダル追及には膨大な時間とコストがかかり、多くは記事化に至らない。
暴露系ユーチューバーと違って参議院議員の立場で暴く以上、これまでとは比較にならない正確性が求められる。公約実現はそう簡単ではないのは最初からわかっていたことだった。
それでもガーシー氏は公約実現を徹底追求し、一歩も引かない姿勢を貫くべきだった。任期6年のなかで公約を果たさなければ次の選挙で有権者から見放されるのが議会制民主主義のあるべき姿だ。
ガーシー氏が与野党やマスコミの批判を跳ね返して「議員生命をかけて国会議員のスキャンダルを暴く」という強い姿勢を維持していれば、与野党も「除名」に二の足を踏んだのではないか。
第二の失敗は、与野党が恐る恐る投げた「陳謝」というボールに飛びついたことである。
与野党がいきなり除名に踏み切らなかったのは「少数者弾圧」への批判を警戒したからだ。そこで揺さぶりをかけた。ガーシー氏は名誉毀損で逮捕されることを回避するため帰国しないと見越し、第一弾は「議場での陳謝」にとどめ、応じないことを受けて「除名」に踏み切るという二段階の手順を踏んだのである。老獪な政治的駆け引きといっていい。
立花氏にとってガーシー氏はもはや用済み
ガーシー氏はそのレールに乗ってしまった。帰国しない代わりに、髪を黒く染め直し、歳費の返上を申し出て、国会から届いた陳謝文をそのまま読み上げる動画を送った。いわば国会に「恭順の意」を示して除名を免れようとしたのだ。
これは政治闘争として未熟だった。ガーシー氏に投票した約28万人は国会をすべて敵に回してもスキャンダルを暴く姿を期待したのに、倒すべき相手に頭を下げて裏切ってしまったのだ。ガーシー氏への期待感を萎ませて政治的影響力をそぐことに与野党の狙いはあったのだろう。
政治闘争に徹するならば、ガーシー氏は「除名」覚悟で「陳謝」の要求をはねのけ、支持者の期待をさらに引き寄せるべきだった。そうすれば与野党にも「本当に除名してよいのか」と慎重論が芽生え、相手を分断できたかもしれなかった。