4.その後

ターゲットは、後日Z氏から連絡をもらい、「半導体の基礎知識について勉強させてください。一杯いかがですか?」と会食に誘われる。Z氏は当然、半導体の基礎知識は持っているが、ターゲットとの会食の序盤は、リスクの全くない情報の交換から始まり、徐々に要求をエスカレートさせていくのがスパイの常套手段である。

ターゲットは、Z氏から「勉強させてください」という低姿勢を見せられ、教えてあげようという親切心が湧いてしまい、会食に同意してしまう。(Z氏の国における半導体事情を探りたいという心理も幾分含まれるだろう)

初回の会食では半導体の基礎知識の勉強話に花を咲かせ、Z氏は手土産で受け取るに差し支えない名産品や茶菓子をターゲットに贈る。ターゲットを金品の授受に慣れさせるのだ。

以降、会食を重ねるに連れ、手土産は茶菓子→商品券→現金と変容し、Z氏の要求は表に出ていない情報へとレベルアップしていく。

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この時点で、仮にターゲットが警戒心を持ったところで既に遅い。なぜなら、ターゲットが金品を受け取ってしまった事実を後ろめたく感じ、Z氏に「これ以上は……」と断りの言葉を発しようものなら、Z氏から「あなたにどれだけお渡ししたか覚えていますか? 今更関係をやめたいと言われては困ります」と言われ、暗に“贈収賄の共犯者”のような関係であることをほのめかされてしまうのだ。ターゲットは、Z氏の鋭いまなざしに恐怖さえ覚え、関係を断つことを躊躇してしまう。

こうして、ターゲットが警戒心を持とうが持つまいが、数年~数十年にわたってスパイに“貢献”してしまうことになる。スパイに脅されながら高い要求に応えていくか、どこかで捜査機関に検挙され、スパイにボロ布のように捨てられるかだ。もし検挙されれば、職はもちろん家庭をも失いかねない。住居の引っ越しを余儀なくされ、再就職もままならず、悲惨な人生の結末を迎えるかもしれない。

家族が最初のターゲットになったとしたら

以上が、スパイがターゲットを取り込むプロセスの典型的な例である。多少のステップは省略しているが、その身近な手口を実感いただけたのではないだろうか。さらにいえば、あなたに近づくために、あなたの家族が最初のターゲットとなった場合を想像してみていただければ、その恐ろしさが想像できると思う。