3.接近/接触

いよいよ接近/接触だ。ここでは先の例の通り、道を聞く手法をとり、ターゲットは設立元の半導体開発部門の人間とする。

某日、ターゲットが退社のため、会社を出たところで、Z氏はいかにも人の好さそうでかつ困った顔をして「すみません、○○駅までどのように行けばよいのでしょうか?」と流暢な日本語で話しかけた。

ターゲットは当然、困った人に対して親切に道を教える。ここでの注意点は、Z氏はターゲットを調べ尽くしており、退社後どのように自宅に向かうかを100%把握しているということだ。つまり、Z氏が道案内を依頼するのは、“ターゲットが帰宅時に使用する駅”にほかならない。そうすれば、会社から駅まで一緒に歩きながらターゲットと会話できるからだ。

相手が警戒心を解く魔法のキーワード

駅までの会話では、人当たりのよいZ氏主導で他愛もない世間話が行われる。そのうちZ氏から「実は、一時期C大学で勉強をしていました。」という話が出る。もちろん、C大学はあらかじめ調べ上げたターゲットの母校であり、ターゲットはZ氏から思わぬ共通点を示されたのだ。

なぜZ氏はこのようなことを言ったのか? 理屈は簡単だ。あなたの見知らぬ人物が、同郷だったら? 母校が同じだったら? 皆さんも思わぬ共通点の話題で相手に親近感を持ち、話が盛り上がった経験があるだろう。ターゲットを知り尽くしているZ氏はそれを狙う。

ひとしきり母校の話で盛り上がったところで、Z氏から「日本で半導体関連の研究をしている」と言われたターゲットは、半導体関連の話にも花を咲かせる。ここまでくれば、Z氏にとって、ターゲットへの接近は成功したといっても過言ではない。

これらの状況は、Z氏がターゲットを入念に調査しているからこそ、演出できるのであり、そのタイミングや環境の創作はZ氏の思いのままだ。

そして、Z氏は偽名の名刺、ターゲットがZ氏の国に警戒心がなく、公的な身分に安心感を覚える人物であれば外交官等の身分の名刺を差し出し、ターゲットとの連絡先の交換に成功する。