日露関係は最悪の段階に突入した
これに対し、ロシア側は日本を「非友好国」に指定するなど、強硬姿勢で臨み、今年に入っても反日外交を強めている。
外務省のザハロワ報道官は「日本との平和条約交渉は完全に閉ざされた」と述べ、領土交渉を再開する意思のないことを強調。北方領土周辺の日本漁船の安全操業に関する政府間交渉に応じない方針も通告した。
ロシアは今年2月から、同国産原油の輸入価格に上限を設けた日本などG7や欧州連合(EU)諸国に禁輸措置を発動しており、エネルギーと漁業で日本に圧力をかける構図だ。
ロシア最高検察庁は1月30日、故瀬島龍三元伊藤忠商事会長ら旧日本軍人3人の名誉回復措置を取り消すなど、対日歴史戦も挑んでいる。日露関係は1992年の新生ロシア誕生後、最悪の段階に突入した。
回顧録が交渉の障害になる可能性がある
今年は日本がG7の議長国で、岸田首相は「G7議長国としてウクライナ支援で積極的な役割を果たし、連携を強化する」としている。ロシアは5月の広島サミットを牽制し、対日圧力をさらに強化しそうだ。
日露平和条約交渉の再開は、ウクライナの終戦、プーチン政権の退場を待たねばならないが、仮に交渉が再開されても、安倍氏の回顧録が障害になる可能性がある。日本側が「4島の帰属確認」を求めても、ロシアはシンガポール会談の議事録を公表し、日本の立場が「2島」に転換したと主張するだろう。
回顧録は北方領土問題への日本の混乱や動揺、弱みを暴露した形だ。外交交渉の情報公開請求に対し、北方領土問題の経緯は公表できないとしてきた日本政府の立場とも矛盾する。
ザハロワ報道官は「日本の現政権は、前任者らが長年作り上げてきた協力を一貫して破壊している」と批判しており、ロシア側は将来の交渉で安倍路線への回帰を求めそうだ。
安倍外交のダメージ・コントロールをどう行うか、日本の対露外交は新たな課題を背負った。