1両を失うだけで大ダメージになる

これは第2次世界大戦中の旧ソ連とは対照的だ。ドイツ軍の猛攻を受けたソ連は8万両の戦車を失ったが、持ち前の工業力を大いに発揮し、終戦時にはむしろ開戦時より多くの戦車を保有していた。

エコノミスト誌は、当時に対して現在では、戦車1両あたりの性能と価格が向上しており、そもそも配備されている戦車の数がかなり減少していると指摘する。1両ごとの喪失のダメージは以前よりも重くのしかかるようになっており、製造ペースの鈍化に悩むロシアにとって苦しい状況が続いている。

生産ペースについても同様だ。1940年代であれば月産1000両以上のペースを達成していた旧ソ連だが、現代の戦車は暗視スコープや照準器、そして弾道補正のための風速センサーなど、精密な電子部品を多く必要としている。単純に人手を投入してペースを上げることが難しくなっている。

また、40年代であれば戦時統制の下、一般の生産工場を転用して戦車の量産に舵を切ることが容易だった。だが現代では、精密部品を搭載した戦車を一般の工場で製造することは非常に困難だ。

欧米の戦車で戦力を保つウクライナ

保有戦車の喪失が続くのは、ウクライナ側も同じだ。ワシントン・ポスト紙は、「ウクライナの兵器庫にもまた変化があり、(元来ロシアよりも)著しく少ない戦車の車隊に昨年、喪失が続いた」と振り返る。

ただし、ウクライナ場合は国際的な支援の恩恵を受けている。各国からの戦車の供与により、戦闘をより安定して実施できる可能性がある。同紙は「こうした損失の一部は、ウクライナがポーランドなどの同盟国から確保したソ連時代の戦車によって相殺されている」と指摘する。

ウクライナからの度重なる要請を受け、アメリカはM1エイブラムス、ポーランドはドイツ製レオパルト2、イギリスはチャレンジャー2といったように、それぞれ戦車の供与を決定している。こうした供給網が、ウクライナにとっては戦力維持の「鍵」になるのではないかとワシントン・ポスト紙はみる。

ポーランドのレオパルト2PL(MBT)、ディフェンダー・ヨーロッパ22演習にて。(写真=Ministerstwo Obrony Narodowej/CC-BY-3.0-PL/Wikimedia Commons

もっとも、戦車の生産体制に悩んでいるのは、ウクライナ側も同様だ。エコノミスト誌は、ウクライナ唯一の戦車工場であったハリコフ近郊の拠点が、戦争のごく初期に破壊されたと指摘している。

支援を申し出た欧米諸国での製産も軒並み遅れがちとなっており、必ずしもロシア側のみが一方的に戦車不足にさいなまれているわけではない。

砲塔がびっくり箱のように飛び出る

ただしエコノミスト誌は、一般論として攻撃側が防衛側よりも多くの戦車を必要とすると論じている。紛争の長期化で戦車の在庫が問題視されるようになったいま、ロシア側がより厳しい状況に置かれる展開はありそうだ。