発信力はものすごいが、驚くほど実務が苦手
彼女の弱点は、驚くほど実務が苦手な点です。2020年の話になりますが、新型コロナウイルスの感染者が続出していた新宿・歌舞伎町で、保健所と警視庁がホストクラブや風俗店を巡回しました。最初、小池さんに連絡し、「警察官と保健所職員でやりませんか」と打診したのです。保健所は、区が管轄しているとはいえ、東京都が人事を決めていますから。小池さんは「うーん」と考え込んで、その後、「国でやってください」と言ってきたのです。だから政府ですべて調整して実施することにしました。保健所には人員の余裕がないというので、警察官のOBを保健所で臨時に採用するという手続きを取って、巡回してもらいましたが、小池さんは一切協力してくれなかった。
一方、小池さんの発信力はものすごい。とにかく、命名もメディアの使い方もうまいですよ。感染が拡大すると、記者会見では「ステイホーム」や「東京アラート」を呼びかけて、「やってる感」を出すのですね。「実務をこなしているのは、政府なんだけれどなあ」と随分思いました。手強い相手です。
小池新党に「やられた」と思った
――安倍さんは17年9月25日に記者会見し、衆院の解散を表明しましたが、小池氏も同じ日に希望の党の結党を発表した。焦りましたか。
小池さんにやられた、と思いましたよ。私の解散表明よりも、小池さんの新党に世の中の注目が集まってしまった。これは大変なことになったと思いましたね。
下村博文元文部科学相は、私の解散表明の記者会見直前に、「総理、解散やめてください」と言ってきました。でも、解散の流れはできていたので、「今さらやめられないよ」と。下村さんは「このまま突っ込んだらみんな落ちます」と言うので、正直根拠はなかったのだけれど、「大丈夫だから、私を信じてついて来なさい」と突っぱねたのです。
あの時は必死でしたよ。小池さんは、かつてのJR西日本のCMタイトルを利用して、「三都物語」と呼んで松井一郎大阪府知事と大村秀章愛知県知事に連携を呼びかけました。私は、日本維新の会代表だった松井さんに電話して、「三都物語なんて、乗らない方がいいよ。独自に戦った方が、維新らしいんじゃないの?」と言ったのです。松井さんも「ではそうします」と言ってくれていたのだけれど、結局、小池さんの方に乗っかってしまった。あの時の希望の党の勢いは凄かったから、流されちゃったんですね。
でも私は正直、劣勢でも勝てるのではないか、と思っていました。ある種、楽観的な考え方の持ち主なのかもしれません。楽観主義にならないと、選挙なんて戦えないのです。
その後、希望の党の政策を見たら、あまりにも中身がない。「満員電車ゼロ」を掲げていましたが、それは東京の発想ですよ。私の地元では、一度でもいいから電車を満員にしてみたいと思っているくらいです。地方はどこもそうでしょう。あまりにも底が浅すぎる、これはミスするのではないかと思いました。