岸田内閣の目指す「防衛費のGDP比2%への増額」は望ましいのか。元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏は「防衛予算は『防衛計画の大綱』の存在によっていびつな構造になっている。予算を増やす必要はあるが、やみくもに増やしても、『1%文化』が変わらなければ、防衛力強化はおぼつかない」という――。

※本稿は、香田洋二『防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

国際観艦式のため海上自衛隊の護衛艦「いずも」に乗艦し、訓示する岸田文雄首相(中央)
写真=時事通信フォト
国際観艦式のため海上自衛隊の護衛艦「いずも」に乗艦し、訓示する岸田文雄首相(中央)=2022年11月6日、神奈川県沖の相模湾

現役海自総監は「防衛費増額は手放しで喜べない」とこぼした

「諸手を挙げて無条件に喜べるかというと、全くそういう気持ちにはなれない」

海上自衛隊呉地方総監部の伊藤弘総監が2022年7月4日の記者会見で、こう発言したと伝えられた。記者会見が行われたのは、折しも参院選の真っ最中だった。自民党は防衛費について、対国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に防衛力の抜本強化を掲げていた。

防衛省・自衛隊も防衛費の増額を喜ぶに決まっている。だが、伊藤総監は少し毛色の異なる発言を行った。「なんだ、お前は。防衛力を強化しなくてもいいのか」と批判する人もいるかもしれないが、少し待ってほしい。

確かに伊藤総監は余計なことを言っているかもしれない。記者会見では「社会保障費にもお金が必要な傾向に全く歯止めが掛かっていない。我々がある面、特別扱いを受けられるほど日本の経済状態はよくなっているんだろうか」と疑問を呈した。

しかし、私も立派な高齢者だから言わせてもらうが、社会保障費はずっと優遇され続けてきた。1998年度の社会保障費は約15兆円だったのに対し、防衛費は約3兆円だった。これが20年後の2018年度になると、社会保障費が約30兆円に膨らんだのに対し、防衛費は5兆円だ。