「正面装備」のほかに「後方」「教育・訓練」があっての防衛力
私は野放図に防衛費を増やし続けるべきだったと言いたいのではない。そうではなくて、1%枠を達成するため、いびつな防衛予算のあり方が定着してしまったことが問題なのだ。
防衛力とは何か。そう問われると、戦車とか、潜水艦とか、戦闘機を想像する人が多いだろう。いやいや、今後の防衛力はミサイルが大事だと言う人もいるかもしれない。これらはみな「正面装備」と呼ばれる。
だが、正面装備だけで自衛隊や軍隊は戦えない。教育・訓練にもお金はかかる。さらに兵站にはもっとお金がかかる。兵站は英語でロジスティックスのことだが、要は弾薬や油、食糧や医療のことだ。戦場の最前線で戦うために必要なのが正面装備であるとすれば、後方から弾薬や油を運び込むのが兵站だ。戦闘部隊の後方支援という意味で「後方」とも呼ばれる。
何が言いたいのかというと、防衛力は「正面装備」「後方」「教育・訓練」という三本脚がそろってはじめて安定する椅子のようなものなのだ。どれか一つが欠けても椅子はグラグラしてしまう。しかし、自衛隊という椅子は、防衛費1%が形成した組織文化の影響で三脚の長さがそろわずにグラグラしたまま冷戦終結を迎え、現在に至っている。
この問題は、私も強く意識してきた。だから、海上自衛隊の予算を要望する際は、バランスよく配分しようと心がける。たとえば、「正面装備に40%、ロジに30%、教育・訓練に30%」という具合だ。しかし、これが通らない。その元凶がGDP1%枠だ。
正面装備も人件費も減らせないから、弾薬を削る
陸海空自衛隊はそれぞれの予算要望をまとめる。しかし、これを防衛省が財務省に要求する予算として盛り込むかどうかを判断する査定は、背広組の内部部局の仕事だ。背広組はどうしても対GDP比1%に収めなければならないため、査定は厳しいものになる。
【背広組】この護衛艦は来年に回してもいいのではないか
【制服組】それでは困る。計画を達成できなくなってしまう
【背広組】では人件費を減らそう
【制服組】そういうわけにもいかない。定員も決まっているし、人がいなければ艦船は動かせない
【背広組】では何を削るのか。1%枠は守らなければならない。海上自衛隊にだけわがままを許すわけにはいかない
【制服組】……。では仕方がないので弾薬を削ります
非常におおざっぱに再現してみたが、こんな具合で査定は進む。我々は、対GDP比1%枠に合わせて予算をやりくりすることを「枠入れ」と呼んでいた。ここでのポイントは、枠入れの最終的な判断は、制服組に任されているところだ。弾薬がなければ自衛隊は戦えない。そんなことは制服組も背広組もわかっている。