2022年7月8日、選挙演説中に凶弾に撃たれ、非業の死を遂げた安倍晋三元首相。生前、その肉声を読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏らが聞き取っていた。あまりに機微に触れる――として一度は安倍元首相が刊行を見送った36時間にわたる未公開インタビューをまとめた『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)より、「小池都知事の評価」について紹介する――。

※本稿は、安倍晋三【著】、橋本五郎【聞き手】、尾山宏【聞き手・構成】、北村滋【監修】『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)の第8章「ゆらぐ一強 トランプ大統領誕生、森友・加計問題、小池新党の脅威 2017年」を再編集したものです。
※肩書は当時のものです。

日本記者クラブ主催の党首討論会で安倍晋三首相(左、自民党総裁)を見詰める希望の党の小池百合子代表(東京都知事)=2017年10月8日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
日本記者クラブ主催の党首討論会で安倍晋三首相(左、自民党総裁)を見詰める希望の党の小池百合子代表(東京都知事)=2017年10月8日、東京都千代田区

小池氏は常に「ジョーカー」

――小池百合子都知事の政治家としての評価はいかがですか。

小池さんは、常にジョーカーです。手札の1から13の中にはないのです。ジョーカーのカードなしでも、トランプの多くのゲームは成り立つのだけれど、ジョーカーが入ると、特殊な効果を発揮してくる。ある種のゲームでは、グンと強い力を持つ。スペードのエースよりも強い。彼女は、自分がジョーカーだということを認識していると思います。ジョーカーが強い力を持つには、そういう政治の状況が必要だね、ということも分かっている。

――都議選当日の(17年7月)2日夜、安倍さんは、麻生副総理、菅官房長官、甘利明前経済再生相と会食しています。相当の危機感があったのでしょうか。

4人で会った時は、とにかく党がしっかりとまとまっていれば、乗り越えられるという認識でしたね。安倍政権が倒されるとしたら、敵ではなく、身内だと。いくら小池さんが強いと言っても、国会に足場を持っているわけじゃない。自民党内を動揺させなければ大丈夫だという考えで一致しました。実はあの会合は、党内に見せておく目的もあったのです。4人組というとあまり聞こえは良くないが、この4人は全く崩れていない、ということをアピールしたかったのです。支持率は下落傾向だったし、私自身、危機感はありましたが、それを表に出すと党内が浮足立ちますから、泰然自若を装っていました。

上昇すること自体が目的になっている

小池さんはいい人ですよ。いい人だし、人たらしでもある。相手に勢いがある時は、近づいてくるのです。2016年に知事に就任した当初は、私の背中をさすりながら話しかけてきて、次の衆院選では自民党の応援に行きますからね、とまで言っていたのです。

しかし、相手を倒せると思った時は、バッとやってきて、横っ腹を刺すんです。「あれ、わき腹が痛いな」とこっちが思った時には、もう遅い。

彼女を支えている原動力は、上昇志向だと思いますよ。誰だって上昇志向を持つことは大切です。でも、上昇して何をするのかが、彼女の場合、見えてこない。上昇すること自体が目的になってしまっているんじゃないかな。

上昇する過程では、小池さんは関係者を徹底的に追い落としてきましたね。築地市場の豊洲移転問題では、土壌汚染対策などが不十分だったのではないかと石原慎太郎元知事の責任を追及した。都議会のドンと言われた内田茂前自民党都連幹事長と対立し、内田氏を引退に追い込みました。そう考えると、私も危うかったです。