カードも借金だと気づかなかった

幸いだったのは借金がなかったこと。一度、6000万円のタワーマンションを買おうとしたのだが、夫が契約寸前に反対。広告のデザイナーだった夫は職人気質で、不思議なことに妻と一緒にセレブ生活をしていたときも今も、金銭感覚はブレていない。コンピュータの値段には詳しい夫だが、マンダリンオリエンタルホテルのエステが9万円するとは知らなかったのだ。香織さんがプレゼントしたゴヤールのブリーフケースが40万円すると最近知って、腰を抜かしそうになった。

セレブ妻になったつもりで右往左往していたのは自分だけ。男を見る目は間違っていなかった、と香織さんは語る。

「カードだって借金だっていうことに気がつかなかったんです。自分の両親も夫の両親もカードで買い物三昧なんて、もともと縁がない。だから、マンションもローンで買わずに踏みとどまれたんです」

今頃、6000万円のローンを抱えていたらと思うとぞっとする。仕事があるだけでもありがたいと思える心、何よりも家族が一番大切と思える気持ち。全部、没落したからこそ、わかったことだ。

セレブ時代より、収入が減った今のほうが貯金もできている。ゼロだった貯金はやっと今500万円になった。

「もしまた収入が増えることがあれば、もっとましなお金持ちになれると思います。今度は社会に還元したり、なるべく人のために使いたい」

3万円のお祝い返しを贈った旧友ともつきあいを再開した。「大丈夫、わかってるよ。あんたがちょっとおかしくなっていたってこと」と彼女は笑ってくれた。

本当にほしいもの、ほしくないもの、大切なもの、大切じゃないもの……高い代償だったが、自分の「価値観の仕分け」ができたことは無駄ではなかったと思いたい。

「結婚当初に住んだのは家賃7万円のアパートだった。だから没落してもまた這いあがれると思うんです」と語る元セレブ妻の香織さんの顔は何か晴れ晴れとしていた。

※すべて雑誌掲載当時

(澁谷高晴=撮影)
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