身体的虐待で保護された4歳女児のケース

ここに一つの架空事例を紹介します。まず、このマミちゃんと咲希さきさんという1組の親子のことを考えていきたいと思います。

事例 身体的虐待で保護されたマミちゃん
【家族の構成】(全て仮名です)
父:石田大樹 25歳 契約社員(アパレル関係)
母:石田咲希 27歳 パート(飲食店勤務)几帳面で時に感情的になる
長女:マミ 4歳 小柄でやや痩せ気味 卵アレルギーあり A保育園→C児童養護施設へ
長男:大和 2歳 B保育園通園中

大樹さんと咲希さんはSNSを通じて交際を開始。間もなくマミちゃんを授かり、それを契機に結婚。その後、第二子の大和くんも誕生し、四人家族に。大樹さんは営業職の契約社員で、帰宅も遅い。咲希さんはワンオペ育児が続いていた。夫の収入だけでは高いマンションの家賃代で生活が苦しく、一年前から咲希さんも大型スーパーでパートを始める。子どもたちは同じ保育園に入れず、自転車で前後ろに子どもを乗せ、二カ所の保育園に預ける毎日だった。マミちゃんの要領の悪さに咲希さんは強く叱責することも多く、日常的に叩くことがエスカレートする。

マミちゃんは、夕食をなかなか食べず、ぐずぐずしていることが多かった。そのたびに、生活リズムに厳しい咲希さんは、このままでは八時の就寝時間に間に合わないと、マミちゃんを厳しく叱責した。また食事の際にも、ゆっくり食べるマミちゃんをしばしば叱った。

その日もマミちゃんが食べ物で遊び始めたため、咲希さんが思わずこぶしで殴り、マミちゃんはその勢いで椅子が倒れ、額を床にぶつける。咲希さんはその後冷やすが顔面の腫れは大きくなり、マミちゃんは目をあけるのも難しい状況だった。

翌日、いつもどおり保育園に登園。保育士に我が子を預ける時、咲希さんは額のあざ顔面の傷のことには触れず、連絡帳には「ふざけていて顔面を打った」と書かれていた。保育士がマミちゃん本人に額の痣のことを確認すると、「ママがした」と言ったため、①園は児童相談所に通告した。それをきっかけに児童相談所が介入し、一時保護となる。その後児相の説得の上、施設入所となる。

写真=iStock.com/Halfpoint
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当初は「しつけ」と主張

大樹さんは児相での面接には同席するが、どこか他人ごとのようなそぶり。大樹さんの実家は他府県にあるが、交流はない様子。咲希さんの実家は隣のT市にある。しかし、咲希さんは父母には一時保護のことを黙っていてほしいと児童相談所の担当者に話す。

当初、咲希さんは自身の虐待行為を認めず、施設入所にも納得せず、児相に対しても、「私は虐待していません、しつけだ」と感情的に怒るばかりで話し合いが難航した。しかし、その後咲希さんと大樹さんとの面接が行われる中でマミちゃんの子育ての難しさを吐露するようになり、日常的に叩いていたことも明かし、入所に同意する。

マミちゃんが保護された後、咲希さんはどのような状態だったのでしょうか? 咲希さんから見える世界を以下の場面に焦点を当てて、想像してきます。