パチンコこそが最大の生きがい
聞けば木崎さんは、元々居酒屋のママで、お酒好き、タバコ好き、そして大のパチンコ好きで知られており、事故を起こす前は週に2~3回の頻度で、自宅から車で20分ほどのところにあるパチンコ店まで、自ら運転して通っていたそうだ。ところが2週間前、パチンコからの帰り道にハンドルを切り損ねて電柱に衝突してしまったのだ。
「どうして命が助かったのに、事故を起こす原因になったパチンコにまた行きたがるのか、理解に苦しみます」と、娘さんは少しイライラした様子だった。木崎さんにとって、車を買ってもらえないことは、もうパチンコに行けないことを意味する。お店をたたんだ今、パチンコこそが最大の生きがいなのだろう。だからクレーマーのように電話をしてくるのだ。
地域包括支援センターでは現状打つ手がないらしく、そこで私のところにお鉢が回ってきたというわけだ。
「ではもう車を購入するという選択肢は、絶対にないということで間違いないですか?」と念のため確認すると、娘さんは「はい、それは絶対にできません。いつ加害者になるか分からない状態で、また事故を起こされても困りますので」と、しっかりとした口調で答えた。
娘さんにとっては、もしかしたらパチンコそのものもやめてほしいのかもしれないが、それでは木崎さんの娘さんへの電話攻撃が、一生続くことは目に見えている。そこで私は、2つの提案をした。
週に1度、家族がパチンコ店まで送迎する
1つ目は、きっとパチンコ仲間がいるはずだから、その人たちに送迎をしてもらうのはどうか? ということ。しかし、木崎さんにはパチンコ仲間はいるものの、店で顔を合わせたときに会釈する程度なので、お互い連絡先はおろか、名前さえ知らないという状態だそうだ。
「では、ご家族が送迎する日を決めて、木崎さんを連れて行くしか手はないですね」と、私は2つ目の提案をした。
やはり、パチンコ自体をやめさせることは難しいかと、娘さんの落胆している様子が、電話の向こうから伝わってきた。
そこから娘さんは、週に1度、木崎さんをパチンコ店まで送迎することを決めた。娘さんは初めて送り届けたとき、「お母さん、2時間経ったら迎えに来るからね。延長はなしだよ!」と声をかけた。
すると、「ケチだねぇ。この1カ月来られなかった分を取り返してやるんだから」と憎まれ口を叩きながら、娘さんに分かったよと言う代わりに、手をヒラヒラ振りながら、颯爽と店の中へ消えて行った。