強盗が警察署長を務めているようなもの

朝鮮戦争の時には、ソ連がたまたま安全保障理事会をボイコットしていて、国連は軍事行動ができた。湾岸戦争のときには、ソ連が解体したあとで、安保理は機能を回復したかにみえた。そのあと、安保理は、冷戦時代以来の機能不全の状態に戻ってしまった。

北朝鮮は、核拡散防止条約から脱退すると宣言し、核開発を進めている。安保理の議決によって、国連はいちおうの経済制裁を課している。けれども、それ以上踏み込んだ制裁案になると、中国やロシアが反対する。効果的な手は打てないでいる。クリミア侵攻でも、ウクライナ戦争でも、常任理事国のロシアが当事者だ。制裁を決議できるはずがない。台湾有事は、やはり常任理事国の中国が当事者だ。国連は身動きがとれない。

国連の安保理は、言ってみれば、強盗が警察署長を務めているようなものである。事件を解決できるはずがない。これは、国連の設計思想に問題がある。

国連は、第二次世界大戦を共に戦った、連合国が母体となって創設された。連合国は、共通の敵があった。同盟しなければ負けてしまう。呉越同舟でまとまった。戦争が終わった。共通の敵がいなくなると、各国の利害と言い分はばらけてしまう。相談がまとまらなくなる。国連を仕切っているのは、主要な軍事大国である。いまは、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国だ。

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常任理事国はやりたい放題になっている

ロシアがウクライナに侵攻した。国際法違反だ。お目付役の常任理事国(ロシア)が、拒否権を持っている。どんな制裁案も通るわけがない。しかもこれら5カ国は、みな核保有国だ。核兵器を取り上げるわけにも行かないし、軍事力で言うことを聞かせるわけにも行かない。核兵器で反撃しますよ、と凄まれれば、それ以上の圧力はかけられない。つまり、常任理事国は、やりたい放題である。

主要な大国を束にすれば、実行力のある国際組織ができる。現実的な判断だ。だが、主要な大国のあいだに矛盾と紛争が生じた場合に、解決の方法がない組織ができあがった。最初から、国連の機能不全は運命づけられていた。

安保理の常任理事国が対立するのには、世界史的な背景がある。20世紀に安保理が機能しなかったのは、冷戦のせい、東西対立のせいである。ソ連は世界革命をめざす共産党に率いられており、自由世界を率いるアメリカと真っ向から対立していた。世界観や信念がまるで違うのだから、協調できるはずがない。というわけで、イデオロギーの対立が、国連を機能不全に陥れていると思われた。

ならば、イデオロギーの対立が過去のものとなれば、国連の機能不全は解消するのではないか。でも、そうではなかった。