世界のリーダーだったのアメリカの凋落

世界の主要国の対立には、世界史的な背景がある。対立の主な原因は、世界の不均等発展である。アメリカの覇権を考えてみよう。アメリカは、ヨーロッパから距離をとっている。豊かな資源に恵まれ、相対的に人口が少なく、資本や科学技術や政治制度や社会制度や法律や宗教や哲学や労働力や……、ヨーロッパ文明のいいとこ取りができた。

資本主義と民主主義がこの場所で、もっとも豊かに花開いたのは、無理もない。その結果、アメリカは世界を仕切るだけの経済力と軍事力を手に入れ、自由主義世界のリーダーとなった。20世紀は、アメリカの世紀だった。アメリカは、ファシズム、ナチズム、軍国日本の挑戦をしりぞけ、冷戦を戦い抜いてソ連を解体に追い込んだ。アメリカ抜きに、世界の安全保障は語れない。

そのアメリカが凋落する。その原因は、経済のグローバル化。資本と技術と情報が、すみやかに国境を越えて移動する。先進国はどこでも、製造業が空洞化していく。賃金が高すぎた。中国やインドや東南アジアや……に、同じ製品をずっと安価に製造できる製造拠点をつくれるのだ。

こうして、経済大国の地位が、中国やインドといった、旧大陸のかつての大国に移りつつある。歴史ある文明の中心地。よく教育された10億人以上の人口と、社会のまとまり(インテグリティ)がある。新大陸・アメリカの優位は失われ、旧大陸の文明国が大国の地位を手に入れて行く。

アメリカの旗
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大国と大国が衝突すれば国連は機能しない

ロシアも、かつての大国だ。イデオロギーでなく、文明としての誇りをかけて、西側諸国やアメリカと対峙している。中国やインドも、文明としての誇りをかけて、これまでの世界秩序に異を唱えるだろう。これらの国々は、国民国家(ネイション)の流儀に従って国づくりをしている。

しかし、ネイションの範囲と流儀を、実ははみ出している。超ネイションである。凋落する新大陸のアメリカと、旧大陸の復活したいくつもの大国とのあいだの、対立。これが、21世紀のグローバル世界の根底を規定する力学だ。

大国と大国が衝突すると、国連は機能しない。大国と大国がどう戦うかは、大国のやりたい放題である。中国は、台湾を統一したい。なんとしても統一したいと思っている。では、台湾有事の際に、中国は核兵器を使うだろうか。

核兵器を使うしか、台湾を統一する方法がないのなら、使うかもしれない。しかし、核兵器を使わなくても目的が達せられるなら、中国は、核兵器を使いたくないだろう。通常戦力で、台湾やアメリカや日本の抵抗を圧倒する。これがのぞましい。中国は、時間をかけて通常戦力を強化し、台湾侵攻の能力を整えつつある。勝利できるだろう、と思ってもいる。士気も高い。この点が、ロシアの無謀なウクライナ侵攻と異なる。