1人50万円ではなく、500万円の一時金を出す覚悟を

また、政策の不確実性の影響も大きい。児童手当の所得制限を巡っても、制限を課したり、撤廃したりが繰り返されていて、家計としては将来どうなるかを予測し難い。例えば、2009年の児童手当には、年収860万円までという所得制限があったが、2010年から児童手当(旧)が「子ども手当」に改められ、所得制限が撤廃された。その後2012年から、子ども手当は廃止となっている。その後「児童手当」として復活したが、年収960万円までという所得制限が付いた。にもかかわらず、いま国会では再び所得制限を撤廃する議論がなされている。

このように政策の不確実性があるため、(b)の児童手当拡充よりも(a)の出産育児一時金の方が、政策の度重なる変更の影響を被らず、家計の出産・育児計画も攪乱されないはずだ。

グループ(a)の施策としては、昨年、岸田首相のリーダーシップで、出産時に子ども1人当たり42万円が支払われる「出産育児一時金」を、2023年度から50万円に引き上げることを決めたが、これまでの出生数の減少トレンドをみても、8万円程度の増額で合計特殊出生率が上昇に転じるとは考えがたい。岸田首相や政府が本気で少子化問題のトレンドを逆転したいなら、子ども1人当たり500万円の出産育児一時金を給付するくらいの覚悟が必要ではないか。

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財源をどう確保するか

もっとも、問題になるのは財源だ。出生数が80万人ならば4兆円の財源、120万人ならば6兆円の財源が必要になる。4兆円や6兆円という財源の調達は、従来の発想なら不可能に見えるが、防衛費増額(4兆円増)の決定プロセスをみても、実は可能なのではないか。例えば、消費税率を2%引き上げれば、6兆円程度の財源を得ることができる。これを財源として、出産育児一時金を子ども1人当たり500万円程度に引き上げてはどうか。

財源を節約するためには、「累進的な制度」に設計する方法もある。例えば、出産育児一時金を、「子ども1人目=100万円」「2人目=300万円」「3人目=900万円」「4人目以降=1000万円」、あるいはもう少し角度をつけて、「子ども1人目=50万円」「2人目=100万円」「3人目以降=1000万円」という累進的な制度にしてはどうか。

1年間の出生数が120万人に増えた場合でも、1人目が3割、2人目が4割、3人目以降が3割なら、3人目以降を1000万円に大幅拡大しても、必要な財源は4兆円程度(=36万人×50万円+48万人×100万円+36万人×1000万円)に圧縮できる。出生数が80万人なら、約3兆円でよく、これは消費税率1%の増税で賄える。