トヨタのクルマに共通する「世界一」
急速充電性能が控え目なのは環境への配慮だとしても、EVとしてアッと驚く飛び道具的魅力がないところには疑問でした。
もちろんトヨタは社風的に世界で一番速いとかカッコいいとか「世界一」を声高にうたうメーカーではありません。乗用車の世界最多販売を達成した時には「それは狙ったことがない」などと語ったりします。
とはいえプリウスは量産車世界一の低燃費を誇りましたし、ランドクルーザーの悪路耐久性はブッチギリに世界一で、カローラシリーズの壊れなさも半端ないのです。
世界的な自動車のリセールバリューの高さもトップクラスでしょう。クルマの華美ではなく、本質的な道具性や価値で世界トップ。それがトヨタ車のすごさだと思うのです。
「私はちょっと古い人間」の意味
もちろん小沢もバッテリーEVがすぐさま世界の乗用車の趨勢を占めるとか、アジアやアフリカの片隅までバッテリーEVで埋め尽くされるとは全く思っていません。EVばかりに注力するのはナンセンスですし、適正バランスがあります。
とはいえ欧州では既に販売台数の1〜2割をバッテリーEVやPHEVが占め、それは数年後部分的に5割、北欧で10割を達成することは十分にあり得ます。
そんな時トヨタが「EVでも本気」であることを証明し、周りを黙らせるにはどこかでブッチギリのEV性能が持つべきだと思うのです。個人的には「世界一の電費」か「トヨタ独自のデジタル体験」か「コストパフォーマンス」など。
しかし実際にはバッテリーセル温度のほか電圧&電流も常時チェックする「電池の安全性」以外にわかりやすい技術的アドバンテージはみえませんでした。
また電池生産のアドバンテージを世界的に中国に握られている以上、今まで長らく日本車の最大の魅力だった「良品廉価」という武器を使いづらいのも事実です。
またプロダクトに関しては基本チーフエンジニアが責任を負うべきであり、魅力や性能を考えるべきです。会社のトップが細かく口を出したり、頭を悩ませる問題ではありません。
とはいえ章男社長が退任会見で告げた「デジタル化や電動化などを含めて、私はちょっと古い人間。車屋を超えられないのが私の限界」のコメントにはある種の心残りを感じました。
もちろんbZシリーズはこの後出てくる全7車種を通じて、トヨタならではのEVの魅力を発揮してくれると考えられ、1作目ですべてを判断するのはまだ早計。
次の佐藤恒治社長体制下を含め、トヨタらしい世界に負けない、そのクラスをリードするバッテリーEVが出てくることをただひたすら願う次第なのです。戦略に加え実車でも驚かせる。そうすれば「トヨタはEVで…」などという声は出なくなるはずです。