「日本型職務給」とは何か

本来、職務給とは、欧米の職種別労働市場には古くから存在していたもので、既存の職種を守る労働組合によって、新しい技術の導入が妨げられるという否定的な面があった。これに対して、戦後日本の企業別労働市場では、個々の職種と切り離された職能給の下で、複数の職種に対応できる企業内での流動性が高い。

例えば、組立作業用ロボットが導入されても失業の心配がないため、組合の反発は少なく、製造業の生産性向上に貢献した。

こうした職務給に対する職能給の優位性が損なわれた背景には、日本経済の成長減速と高齢化がある。企業内の多様な職種を経験する業務上の訓練(OJT)の投資効果は、企業の成長に比例して高まる。それが1990年代以降の約30年間に及ぶ長期停滞の下で、大幅に低下する一方、労働者の高年齢化による賃金コストの高まりと相まって、企業からは年齢に無関係な賃金体系である職務給への転換が叫ばれるようになった。

もっとも、日本の新卒一括採用ではじまるOJTは、若年者の仕事能力形成にはいぜん重要である。その意味では、筆者は40歳になるまでは従来の職能給主体で、それ以降は、企業内で労働者自ら選択した職務給でという組み合わせが最適となる、と考える。職能給か職務給かは、企業内の年齢別の働き方に応じて選択するというのが「日本型」のひとつのイメージとなるだろう。

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管理職という職種

新規に日本企業で職務給を導入する際に、最大の懸案となる職種が管理職である。多くの企業では、管理職は部下の仕事の管理が主で、自らの業務範囲は曖昧な場合が多い。このため、部下の仕事内容に細かな指示を出してやる気をなくさせたり、逆に部下に仕事を全部丸投げし、過重な負担を負わせたりするなど、ばらつきが大きくなる。そもそも、40歳代の年齢になると、何らかの管理職ポストに就くのが当たり前という、日本企業の慣行は、今後の高齢化社会では維持できない。

あるべき管理職の職務とは何か。それは上司の指示に従って行動すれば良い部下と異なり、自ら与えられた裁量性を生かして、新たな仕事に向かう決断をすることである。それができない人材を管理職にすれば前例踏襲主義となり、改革が必要な問題を、ひたすら先送りすることになる。

部下の仕事能力の評価も管理職の大事な職務であり、厳しすぎても甘すぎても良くない。そもそも部下よりも優れた仕事能力を持たなければ、正しい人事評価はできない。部下が特定の職務に限定された職務給の働き方になれば、急な欠員が生じた場合に、誰かに仕事を振ることが困難になる。結局、管理職に、部下の欠員も一時的にカバーできるだけの仕事能力が求められる。

これだけ厳しい要求を管理職の職務として定めれば、その成り手が不足するかもしれない。しかし、それこそが、今後、増える一方の中高年社員に、限られた管理職ポストをどう割り当てるかの人事上の大きな課題を解決する答えとなる。少ないポストに見合って管理職志望者を選別するためには、その職務内容を厳しくし、それでも管理職になりたい者の内から選べば良い。