「BSE問題」がきっかけで豚丼ブーム到来

――とん田さんの人気は、ライダーさんの口コミから始まって、メディア取材がそれを後押ししたかたちなんですね。

【小野寺】実はもう一つ大きな理由がありまして、それが「BSE問題」なんです。

――BSEは2000年代初頭に流行した牛の脳の病気ですよね。それがとん田さんの人気にどのように結びつくのでしょうか?

【小野寺】BSE問題がメディアで頻繁に取り上げられ始めたのは2003~2004年頃で、2003年には米国産牛肉の輸入が禁止されるなど、牛肉に対する漠然とした不安が世の中全体に広がっていた時期でした。

そんな中、大手牛丼チェーン店が2004年2月に牛丼の販売を一時中止し、翌月に「豚丼」を新メニューとして発表したんです。全国にお店を展開するチェーン店が「豚丼」をメニューに加えたことで、その知名度はあっという間に広がったと思います。

――問題を受けた大手牛丼チェーン店さんの思い切った新メニューの発表は、確かにインパクトがありましたよね。 

【小野寺】ほかにも、その大手牛丼チェーン店さんが「豚丼」を発表する前年の秋に  、2種類の料理のおいしさやこだわりを競わせる『どっちの料理ショー』で「海鮮丼VS豚丼」回が放送されたことは大きかったと思います。それまで豚丼は地域で愛される「郷土料理」でしたが、 社会情勢とメディアが追い風となって「豚丼ブーム」が全国に広がっていき、「豚丼って何?」「どこ発祥?」と検索をして帯広がヒットする。とん田もその恩恵を受けた部分もあると思います。

12時に並んでも食べられるのは18時

――複数の要因が重なって人気につながったんですね。ちなみに、「豚丼ブーム」の流れやメディア掲載による影響を受けて以降は、どのくらいの人気だったのでしょうか?

【小野寺】私が先代の後を継いだ2010年以降で最も忙しい日は、8月13日に行われる十勝毎日新聞社の花火大会の日でした。毎年この日に来てくださっている方の中には、椅子とテーブルとカードゲームを持ってきて遊びながら待っている方もいらっしゃいましたね。私たちが仕込みに来るよりも前に来ていた方もいらっしゃって、風物詩のようになっていました。

――ちなみに、その日は並んでから食べるまでにどのくらいの時間がかかるのでしょうか?

【小野寺】12時に並ばれたお客様が食事できるのは18時でしたね。

――ランチのつもりで並んだら、ディナーになってしまうんですね。そもそも、豚丼を提供するまでにものすごく時間がかかるものなのでしょうか?

【小野寺】いえ、10分前後で完成するので、提供までの時間は極端に長いわけではありません。ただ、当時はまだ20名程度しか入れない小さなお店だったこともあり、それが行列の理由の一つだったと思います。お待ちのお客様に対して心苦しいと思いながら、焼いていたのを覚えています。これはとん田だけではなく、十勝全体が盛り上がってきたからだと思うのですが、花火大会の日だけだったこの行列も、年を重ねるうちに行列ができる期間が長くなっていきました。最終的には同じ規模の行列が8月いっぱい続くようになりましたね。