「見られている」「批判されている」と思ってしまう
――病気になってみて、気付いたことはありますか。
通院し始めた頃は、絶えず周りの人から見られているのではないか、陰口を言われているのではないかと思うようになっていました。もちろん実際は誰も見ていないし、指を差しているわけでもありません。それなのに、たとえば病院の待合室にいると、そこにいる人から「あいつはメディアで偉そうなことを言っているのに、自分が病気になっているじゃないか」と思われているんじゃないか、誰かに写真を撮られてネットで公開されるんじゃないか、などと考えてしまうのです。
こういった症状は、おそらく僕がこれまで接してきた患者さんにもあったのではないかと思います。しかし普段の診療では、「眠れない」「集中できなくて仕事に支障が出る」など、日常生活の中で困っている症状について話すことが多いので、こうした悩みというのは、あまり話題にならなかったように思います。でも、メンタルヘルスの不調を抱える人の中には、同じように「会社の人や友人に、病院に入るところを見られているんじゃないか。批判されたり、揶揄されるのではないか」という考えに左右される人はたくさんいるのではないかと感じました。
僕の場合はメンタルヘルスに関する知識があった分、俯瞰的に自分を見ることができ、こうした思い込みは症状の一つだと理解できましたが、そうでなければ、いつも周りから見られている、指差されていると信じてしまうかもしれません。
先ほど、精神科を受診することを躊躇する人は多いという話がありましたが、確かにメンタルヘルスの不調や精神疾患に対するスティグマ(負の烙印。周囲からネガティブなレッテルを貼られること)はありますが、実は自分自身の意識がそれを大きくしている部分があるようにも思いました。
「病人らしくふるまわないと」という思い込み
それから、通院や投薬などで少しずつ回復傾向になってきた頃に、周りから「病人は病人らしくしておけ」と思われているような気がして、あまり笑ったりしてはいけない、病人らしくふるまわないといけないのではないかと思うことがありました。これも「ずっと見られているのではないか」という思い込みと似ていますね。
これまで僕が診てきた患者さんにあてはめて考えると、メンタルヘルスの不調で休職していた人が復職した後も、同じように感じるのではないかと思いましたね。何か楽しいことがあったり、冗談を言われたりしたときに笑うと、「大したことがなかったんじゃないか」「病み上がりのお前が笑うなよ」とほかの人に思われるような気がしてしまうのではないか、と。実際、復職される患者さんに聞いてみたところ、「ものすごくある!」と同意されました。
こうしたことも、自分が病気になってみて初めてわかりました。大きな気付きになりました。