妻に言った。「ゴールドのピアスを作ってあげる」

川に入り夢中で土砂を掘っていると熊に気づかないので、とても危険だ。爆竹を持っていき、川に入る前に、時間差で爆竹を鳴らして熊に知らせる。熊の新しい糞があるところには絶対行かない。熊対策用スプレーも背負っていく。もちろんジャックナイフも持つ。命懸けだ。

砂金掘りは、スコップで掘ってふるいにかける、その繰り返しの作業だ。繰り返す間に、キラッと光るものを探す。何度掘ってもほとんどは石と砂だけだ。丁寧に篩にかけて、目を凝らす。キラッと光ったものを見つけた時は、言葉にできない喜びがある。自分が推定した場所を探し、金粒を見つけた時、「お前はこんなところに溜まっていたのか」と愛おしくなる。この心の震えは、きっとやった人にしかわからない。

2022年は、1日で3gの金が採れた日もあって、有頂天になった。それで妻に「いつかゴールドのピアスを作ってあげたい」と言ったら、妻は内心「自分で買った方が早い」と思ったようだが、「そんなことを言われたら、嬉しくて、頑張ってと応援するしかないでしょ」と言っていた。

妻はたまに北海道での砂金掘りの現場まで付いてきてくれることがあるけれど、いつしか「あなたは夢中で掘っていると、私のことは忘れて採れる方にどんどん歩いて行ってしまう。子供みたい」と匙を投げられた。

現在、砂金を掘っていない時期は、小田原の自宅で炊事もするし、知人に畑を借りて野菜も作る。所有する梅林の手入れもぬかりない。今は料理研究家でジビエの仕事もしている妻が仕事から帰ってくると「お風呂にしますか、ご飯にしますか」と我ながら、甲斐甲斐しい。

ゴールドラッシュといえば、海外だろう。自分もそう思って、定年後にオーストラリアへ妻を連れて2回行った。本当はカリフォルニアに行きたかったけれど、治安がいい方を選択した。

メルボルンとバララット、滞在期間は最長で1カ月半。バンガローやモーテルに2週間滞在しては移動していく。オーストラリアのビクトリア州で10年間掘ってもいいという採金権利書を約24豪ドルで購入し、3カ所を訪れた。

オーストラリアでの採金は、川ではない。ひび割れた大地だ。全て原生林で、樹海みたいなところへ入っていく。沼地にはカンガルーがたくさんいた。周りを見渡しても誰もいない。怪しい人がどこからかやってきて殺されるかもしれない。トランシーバーを首からかけて妻と定期的にやりとりをした。お金を所持してないように見せるため、ヒートテックにジーパンという格好。子供たちには、それぞれ遺書を書いておいてきた。

写真提供=河浚泰知
オーストラリアでの採金

アマゾンで3万8000円した砂金探機を日本から持って行ったけれど、海外はスケールが違う。現地の仲間には「トイ」と鼻で笑われた。オーストラリアでは、40万~100万円する金属探知機(MINELAB SDC2300)を10日間借りた。2日で6000円。買って帰ろうとしたけれど、税関で引っかかるとややこしい。帰国後、日本で販売しているというアメリカ人を紹介してもらい、小樽まで買いに行った。48万円した。