喉から手が出るほど欲しかったアメリカの最新システム
イージス艦の中核となるイージスシステムはアメリカが開発したもので、フェーズドアレイレーダーと当時最新のデジタルコンピュータを使用した高度な情報処理・射撃指揮システムにより、200を超える対空目標を追尾し、10個以上の目標を同時攻撃する能力を持つ。このシステムの総称が、ギリシャ神話の最後の防御の砦となる「盾」を意味するイージスであり、これを搭載した巡洋艦と駆逐艦をイージス艦と呼称した。
当時「超」高性能であったイージス艦は、海上自衛隊からすれば喉から手が出るほど欲しい艦だったが、高価格とアメリカの最新技術保護政策に照らせば、対日売却提供は難しいと思われた。このような中、アメリカ政府がイージスシステムを我が国へ売却してくれそうだということで、1984年に防衛庁に「洋上防空態勢プロジェクト」を設置し、本格的な検討が始まった。
防衛庁がプロジェクトを設置したのは、イージス艦導入のような一大プロジェクトの事業化は内幕一体でしっかり疑問点や実現の可能性を詰めて事業の精度を高めた上で、以後の予算要求作業を進めるためである。当時の内局と海上幕僚監部の責任感と決意の表れであった。
「鬼」と思うほど厳しい態度だった大蔵省担当者
その後、1987年に行われたイージス艦一番艦の予算要求に対する大蔵省(現財務省)側の極めて厳しい説明要求は担当筆者にとって「鬼」とさえ思えるものもあった。簡単に首を縦に振ってもらえるような案件ではなかった。例年の一般的な要求説明の倍以上の時間が経過したが、大蔵省担当者の厳しい態度からは、イージス艦導入の前途に光明は見えなかった。
大蔵省も前例のない高性能かつ高額装備導入の可否を判断する上で、導入を認めた場合には後に控える国会審議と、主権者であり納税者でもある国民に対する予算査定機関としての強い責任感があったことは、説明を担当した筆者にも強く理解することができた。
当時は、米ソが対立する冷戦時代のど真ん中、つまり中国の脅威はほとんど意識されていなかった。そのころは、アメリカにとっても、日本にとっても、ソ連が最大の脅威であったが、防衛庁・自衛隊にとって深刻な「脅威」は他にもあった。当時の大蔵省と野党第一党の社会党だ。