懲戒の理由と処分内容にはバランスが必要

そもそも懲戒処分とは、組織の秩序維持のために、何らかの違反に対して科せられる制裁のことだ。「懲戒解雇」が有名だが、「戒告・譴責」(口頭注意)、「始末書提出」「減給」「降格」「出勤停止」といったものも懲戒処分のひとつである。

「どのような懲戒を設けるか」については基本的に各企業の自由だが、だからといって企業は「自由に懲戒できる」というわけではない。懲戒処分はあくまでも制裁罰であるため、懲戒の理由と処分内容のバランスを慎重に判断されることになる。「遅刻を1回した」だけとか、ちょっとしたミス程度で懲戒処分を下すと、それは「懲戒権の濫用」に該当し、その懲戒は無効となってしまう決まりがあるのだ。

労働契約法
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

ホビージャパンが下した「退職処分」とは聞き慣れないが、おそらく懲戒処分のひとつ「諭旨退職」のことと思われる。これは解雇相当の重大な規則違反ではあるが、懲戒解雇よりは幾分温情的な措置としておこなわれる処分である。双方の違いは次のとおりだ。

懲戒解雇
即日解雇。退職金や解雇予告手当の支給はなく、離職票の離職事由にも「懲戒解雇」と記載され、再就職先にも懲戒処分を受けたことが明らかになる厳しい処分

諭旨退職
処分対象の社員に、自主的に退職届を提出するよう促す。自己都合退職扱いとなり、退職金も支給されることが多い。懲戒ではあるが、一段階軽い処分

「転売容認」は会社の存続にかかわる案件と判断

とはいえ、諭旨退職自体がもっとも厳しいレベルの懲戒処分であり、本来であれば「刑事罰相当の犯罪をおかしたとき」「重要な機密を故意に漏洩したとき」「架空取引や不正会計で会社に損害を与えたり、信用を損なったとき」といったレベルの問題行動に対して下されるものである。今般はそれが「プライベートSNS投稿」に対して下されたわけだから、「厳しすぎる」との意見も一理あるかもしれない。

新田龍『炎上回避マニュアル』(徳間書店)

恐らく本件は、そのような批判があることも想定の上で、あえて下したギリギリの判断ではないかと考えられる。

●単なる一社員のプライベートSNS投稿であるが、当該社員は「ホビージャパン編集者」と身分を明かしており、「社員の意見=会社の見解」と認識されるリスクがあった
●不正転売対策に業界を挙げて取り組んでいる中、多くの玩具メーカーと取引があり、自社でも玩具を販売している会社の社員が転売容認発言をすることは、取引先各社から強い批判を招く恐れがあった→たとえ当該社員から「懲戒権濫用だ」「不当解雇だ」と訴えられたり、その裁判で会社側が負けて解決金を支払ったりする結果になったとしても、迅速に処分を下して取引先や関係者にケジメをしっかりつけなければ、会社の存続が危うくなるレベルの厳重処分案件だった

結果的に、この処分が発表されて以降、炎上は沈静化し、騒動自体も収束している。リスクを負ってでも素早く対処した成果といえるだろう。

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