迅速な自主回収と工場の大規模改修を慣行

しかしその後、外部機関によって分析した結果、虫に加熱の形跡が確認されたため、同社は「製造過程での混入の可能性が否定できない」と認識を改めた。同時に、製品の自主回収費用を補償する「リコール損害保険」に同社が未加入だったことも報じられたほか、問題発覚後、投稿した購入客本人の元へ直接担当者が訪れて商品買い取りを提案した際に、「問題となった写真を削除してほしい」と依頼したこと、社長がコメントを出さず謝罪会見もおこなわなかったことなど、一連の不誠実な対応が明らかとなった。

これにより同社の姿勢への不信感が高まり、「食の安全への認識が甘い」と厳しい批判を招くこととなり、同社は商品の全面回収と約半年間の生産・販売自粛、生産設備の全面刷新を余儀なくされてしまったのだ。

ただ同社は、そこからの動きが早く、かつ徹底していた。その後の調査においても、虫の混入原因や経路の特定には至らなかったが、虫混入疑惑があった所とは無関係な場所も含め、全工場での生産を停止。同時に、既に市場に流通していた製品4万6000個を自主回収するとともに、全国で販売休止を決定した。事件発覚からわずか10日あまりのことであった。

その後、大規模な投資を決定し、生産設備を完全に入れ替え、徹底的に品質管理を強化した。虫混入の可能性があると考えられる箇所の絞り込みをおこなったのち、本社工場では虫の侵入を防ぐため壁を補修し、床を抗菌仕様に変更。また麺の製造ラインには金属探知機、重量チェッカー、X線検査機を設置して異物混入をチェックし、運搬レーンにもセンサーカメラを設置して複数回のチェック対策を施した。

工場入場時に作業員は除菌シャワーと複数回のエアシャワーを実施するほか、原材料や資材の搬入時にも極力外気に触れず、異物混入を防ぐ仕組みにするなど、徹底的な再発防止策を導入した。当時の年間売上高約80億円に対して、改善のために投資した金額は10億円を超えると言われている。

操業停止中も人員整理を行わず、ボーナスは全額支給

操業停止の間、同社は一切の人員整理をおこなわず、従業員へのボーナスも全額支払い、新年度を迎えて新入社員も全員受け入れた。また、生産中止で行き場所がなくなった大量の在庫(食材、調味料、旧容器など)をすべて取引先から買い取り、社長が小売店へお詫び行脚をおこなったほか、自ら工場に赴いて仕分けを率先しておこない、社員を鼓舞するなどの対応をおこなったのだ。

結果的にこれらの姿勢が地元の取引先から強く支持され、販売再開時の支援体制に繋がることとなった。約半年後の2015年5月に生産再開、6月に関東地方での販売を再開した際には、当初予想の約3倍程度の注文が入り、24時間フル稼働の生産体制でも追いつかなくなり、急遽製造ラインを増やして対応しなければならない程であった。その後7月には全国での販売が再開している。

同社は、販売休止期間中、他社にシェアを奪われることもなく、出荷量も拡大を継続。コロナ禍中の2020年5月には、グループ社員約150人に対して「特別感謝金」として一人10万円ずつ支給する大盤振舞いをおこなったことも話題となった。2020年度の売上高も、事件のときからほぼ倍増の約150億円にまで成長している。