女性のご長寿県・短命県

女性の順位推移を見た図表3に鑑みると、恒常的な長寿命地域から東山地方のうち岐阜が除かれる点、東海地方の特に愛知、あるいは近畿地方東部のうち奈良は怪しくなる点が男性と異なっている。中国地方については、女性は山陽地方だけでなく山陰地方もかなり有望となる。

順位の変動が激しかった地域は大丈夫か?

さて、次に順位の変動が大きかった地域についてであるが、今後も長寿が継続するようなもっともな理由があれば、将来も移住の候補地としてふさわしいことになるので、検討が必要だ。

順位の変動が大きかった地域の中で、戦前は短命地域だったのが戦後になって長寿地域に変貌した地域が2つある。1つは大都市部(東京・神奈川、愛知、大阪・京都)であり、もう1つは北陸地方である。

実は、江戸時代の巨大都市である江戸や大坂は、高い未婚率と衛生状態の悪さから人口マイナス地域となっていた(いわゆる「都市蟻地獄説」)。独身流入者が多いと出生も少なくなるのに加え、人口が密集した都市では伝染病が一気に拡大しがちであり、上下水道の整備以前には、ごみ処理問題と合わせて不衛生が死亡率の高さをもたらしていたと考えられる。

わが国においても、肺炎や胃腸炎などの感染症が猛威を振るっていた1920年代前半の段階では、大都市圏は、なお、こうした状況にあったと考えられる。従って、大正期の東京は地方圏からの大量の流入人口で首都機能を保持していた。

戦前から戦後にかけて、こうした大都市圏の短命要因の改善は大いに進んだ。特に米軍占領下、東京に本部のあったGHQが強行したDDT散布や水道の塩素消毒といった公衆衛生対策の効果は著しかったと考えられる。江戸時代以来の大都市における宿命的な非衛生状態から脱し、むしろ大都市が最も衛生的な地域となったのである。衛生改善に加えて医療体制の充実や給食などによる栄養改善も大都市から広まっていった。

その結果、東京都は、戦前の最下位レベルとは打って変わって、1947年から高度成長期が終わる1975年まで平均寿命が基本的に男女とも一貫してトップに立った。東京にやや遅れて大阪や名古屋を抱える愛知でも平均寿命の順位は上昇していった。

しかし、高度成長期前後をさかいに大都市圏が首位である状況は変化し、普通の順位の地域となった。これは、大都市圏にいちはやく導入された保健衛生・医療の体制が全国的に広まっていったからと考えられる。もっとも大阪(あるいは兵庫)は多分、別の要因から近年平均寿命が最下位レベルとなっていると考えられる。

最近20~25年は大都市部で順位の上昇傾向が認められる。特に東京の女性の平均寿命の順位の上昇が目立っている。この時期は都心回帰の時期と重なっており、両者には何らかの関係があろう。

従って、大都市、特に東京・神奈川などは女性にとっては有望な居住地としての可能性を否定できない。