戦前は短命地域、戦後に長寿地域に変貌した北陸
次に、大都市部と並んで、戦前は短命地域として目立っていたが戦後になって長寿地域に変貌した地域として、北陸地方(および滋賀や島根)が挙げられる。
これは気候風土上の不利性が栄養改善で好転したからだと考えられる。JINS調べの「メガネ白書2022」によるとサングラスを使用している人の割合が最も低いのは滋賀であり、鳥取、富山がこれに続いていた。つまり、こうした地域は日射しが弱いのでサングラスの必要がないのである(逆に割合が最も高かったのは沖縄で長崎がこれに続いていた)。
筆者の祖父は富山県の氷見出身であるが、中学時代の地理の参考書に、北陸は気候の特徴として曇天の時期が長く、氷見はくる病で有名、との記述を見付けて驚いた記憶がある。くる病は紫外線(日光)不足や栄養不足によるビタミンDの代謝障害によってカルシウム、リンの吸収が進まないために起こる病気であったが、栄養分の中でもビタミンは外部補給が容易なため途上国においてもこうした疾患は、最近は見られなくなったといわれる。
つまり気候風土上の短命要因が近代的な健康対策や県民の律儀な生活態度で克服されたのであろう。こうした条件が今後失われるとも考えにくいので、これからも気候風土が健康上のマイナス要因とはならないであろう。
従って、気候上は多少うっとうしいところもあるかもしれないが、寿命を考えた移住策としては北陸地方もまた有力な候補なのである。
変動が激しかったその他の地域である四国・南九州、そして沖縄は、戦前、あるいは戦後しばらくは長寿命地域として目立っていたが、近年は、短命地域化している。
これは、北陸地方とは反対に、気候風土の有利性が近代的な生活環境の中では十分に発揮できなくなってきたからではないだろうか。厳しい目でみると、温暖な気候が油断を生み、野放図な生活態度を許しているから短命地域化している可能性があろう。気候風土上はよい地域であるし、ストレス対策上はむしろ好ましい所もあるので、周囲の環境に染まらないだけの覚悟があれば十分移住先としても有望ではあろう。