2つ目は住宅の断熱をよくすることだ。簡単なことである。外側に断熱材を貼り、窓ガラスを二重にすればよい。それだけで3倍は断熱がよくなり、冷暖房の効率がアップする。さらに1990年以前のものと比べて、2050年のエアコンはエネルギー効率が4倍になるだろう。断熱をよくし、新型エアコンに買い替えれば、エネルギー消費をたちまち12分の1にまで減らせる。

三菱総合研究所理事長
小宮山 宏

1944年、栃木県生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。工学博士。2005年、東大総長に就任。「東京大学アクションプラン」を発表して改革を推進する。09年より現職。著書は『「課題先進国」日本』『東大のこと、教えます』など多数。

3つ目は、家庭で最も大きな割合を占める、お湯づくりのエネルギー効率改善である。

日本の家庭では瞬間湯沸かし器がよく使われている。これはガスの燃焼熱の80%が水に伝わり、お湯を沸かす仕組みだ。80%といえばかなり効率がいいと思うかもしれないが、残念ながら違う。

理論的には、ガス燃焼熱のわずか30分の1のエネルギーで、湯沸かし器と同じ量の湯をつくることができる。つまり、給湯に使う熱を得るためにガスで火を燃やすことは、エネルギーの無駄使いにほかならないのである。

これに対して、空気中の熱を電気でくみ上げ、圧縮し、さらに高温化してつくった熱を水に伝えてお湯をつくるのが「エコキュート」という商品名で呼ばれる高効率の給湯器である。これを使うと、電気で温めた場合と比べて約4倍の熱を生み出すことができる。

お湯づくりのエネルギー改善では、ほかにガスを利用した仕組み(家庭用燃料電池エネファーム)もある。ガスや灯油などの燃料から分離した水素を、空気中の酸素と反応させて電気をつくり出し、それと同時にその際に発生する排熱からお湯をつくる装置だ。これを導入すれば、いま瞬間湯沸かし器を使ってお湯をつくるのに必要なエネルギーがゼロになる。

一般家庭で家電を買い替え、断熱をよくし、効率の高い給湯システムを導入すれば、CO2が削減できるだけでなく、じつは新たな市場が生み出される。

給湯システムを例にとると、エコキュート、エネファームの双方とも日本では量産体制に入っているが、これほど効率の高い給湯システムを2つも持っている国はほかにない。

つまり、日本が世界の市場を取りにいけるということだ。日本発の巨大な新市場が生まれる可能性があるのである。エコキュートの価格は一台約100万円から約150万円、エネファームは国の補助金つきで約300万円。新型給湯器市場ひとつをとっても、世界全体で50兆円くらいの規模があるのではないか。

20世紀初め、アメリカのフォードがT型フォードを発売し、世界中に車という新商品を普及させたように、21世紀はグリーン・イノベーションの成果である省エネ商品で、日本企業が世界を席巻する番だ。

このように生の数字に当たり、分析していくと、CO2の削減が課せられるということは企業にとってピンチなのではなく、逆に大きなチャンスであるという新たな視点が導き出せるのである。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=荻野進介 撮影=尾関裕士)
関連記事
茂木健一郎「バカな脳がピンとくる脳に変わる」科学【1】
ノーベル賞受賞者も実践 究極の時間術「棚上げ・不完全法」
売れない時代に必要なのは理系脳か文系脳か
わがままな客の心を開くカギ「物語的理解」とは?
『理科読をはじめよう』