呼吸困難になった妻を1時間かけて同病院に担ぎ込んだ男性も、同様に治療を断られた。男性はAP通信に対し、「憤りを感じます」と語っている。「長時間かけてやってきましたし、妻は呼吸が難しくなっているので心配です」

入院のみならず、外来の患者にも困難が生じているようだ。ロイターは急な政策転換により、病院の負荷が高まっていると報じている。記事は「在庫が減少している風邪薬や痛み止めなどの薬を手に入れるため、患者たちは医師と口論を繰り広げている」状態だと指摘している。

イェール大学公衆衛生大学院のXi Chen准教授は米CNBCに対し、「今後2週間以内に中国は、医療制度に対するかつてない負荷に直面するはずです」との見通しを示している。

写真=iStock.com/Graeme Kennedy
※写真はイメージです

風邪薬や解熱剤が品薄になる異常事態に

こうした水面下での感染増は、ゼロコロナの廃止直後からすでに懸念されていた。

CNNは廃止から5日後の12月12日、「首都を揺るがす大流行の兆し」が見られると報じている。北京では陽性者からの問い合わせの電話が殺到しており、その数は平常時の6倍に当たる1日3万件以上にも達していたという。

新規感染者数は11月末、1日あたり4万人を超えていた。そのさなかのゼロコロナ解除が、医療機関への過大な負担を招く結果となった。CNNは12月11日時点の感染者数が1万人前後に低減したと報じつつも、実際の感染者数は公式発表よりもはるかに大きいおそれもあると指摘している。

中国政府はすでに、コロナ検査を必要とする要件を緩和している。検査数自体が減少しており、実際の動向を把握することはもはや不可能に近い。

信頼できる指標ではなくなった感染者数に代わり、現在では医薬関連品の異常なまでの売り上げが、有症状者の劇的な増加を物語っている。

CNBCは、医薬品通販の香港JDヘルス社のデータを報じている。それによると風邪薬や解熱剤などの12月上旬の売上高は、わずか2カ月前の10月と比較して、約18倍にまで膨れ上がっているという。

品薄への不安が買い占めを招いている可能性もあるが、それを加味しても異様な伸び率と言えよう。

ゼロコロナ解除は最悪のタイミング

およそ3年間続いた中国のゼロコロナ政策は、最悪のタイミングで解除された。11月に発生した1日4万人感染の直後であり、かつ旧正月の直前の月だ。

1月22日から始まる旧正月では、中国各地で旅行者の急増が見込まれる。高齢者のブースター接種率が4割にとどまるとされるなか、都市部に住む無症状の若者が帰省の際に感染を広げるシナリオも懸念される。