過去に起こったことは変えられないけれど…

この調査報道を始めた時、トゥーイーさんは産休中。カンター記者は、取材先の女性たちに心を開いてもらうのに苦労していた。そこでカンター記者は、過去に何人もの性犯罪被害者を取材した経験のあるトゥーイーさんに、電話で助言を求めてきたのだという。

「私はジョディに『過去にあなたに起こったことは変えられないけれど、私たちが協力すれば、他の人たちを守ることができるかもしれない』と伝えてみたらどうかと言ったんです。最終的には、『自分の評判を危険にさらすことになるけれど、他の女性を助けることができるかもしれない』という思いが、被害女性たちの原動力になったのだと思います」

トゥーイーさんの話は、日本の性的被害にも通じると思う。ジャーナリストの伊藤詩織さんは、著書『Black Box』の中で、自分がレイプされた経験は無駄ではなかったと思いたいと書いている。

「この想像もしていなかった出来事に対し、どう対処すればいいのか、最初はまったくわからなかった。しかし、今なら何が必要なのかわかる。そしてこれを実現するには、性暴力に関する社会的、法的システムを、同時に変えなければいけない。そのためには、まず第一に、被害についてオープンに話せる社会にしたい。私自身のため、そして大好きな妹や友人、将来の子ども、そのほか、顔も知らない大勢の人たちのために」

自分の負の経験を伝えることは、未来の女性たちを助けることになる。被害を受けた女性たちはそう信じて連帯し、自分の経験を語り始めたのだ。

#MeTooのその後

しかし、あれから5年たった現在、性被害が社会からなくなったわけではない。トゥーイー記者も、まだ解決にはほど遠いと言う。

「目に見えない問題を解決することはできません。私たちの役割は、ジャーナリストとして真実を掘り起こし、問題を明らかにすることだと思っています。もちろん、この問題は一晩で解決できるようなものではありません。でも、問題がはっきりと見えてくれば、変化への道筋も見えてくるという希望も持っています」と彼女は言う。

日本では、勇気を振り絞って声を上げた被害者がSNS上でバッシングされるといったことは、今でも頻繁に起きている。セクハラや性暴力の事例は、自衛隊の中や教育現場、そしてワインスタインのケースのように映像の撮影現場でも、まだまだなくなっていないのが現状だ。

そこで、日本の状況についても彼女に尋ねてみた。

トゥーイーさんは、女性が社会の主要な意思決定の場でマイノリティーであることが、日本でもこうした性被害の問題を見えづらくしているのではないかと指摘する。