ふだんからやりとりしている相手は30人ほど

イギリスに本社を置くエネルギー企業のマーケティング部で働くトニーは、つい先日、この7年間で3度目の昇進を祝いました。エネルギー企業の営業とマーケティングの分野で活躍する彼は、順調なキャリアを歩むために、さぞかしすばらしい人脈を築き上げたのだろうと、みなさんは思うでしょう。

勤務先の企業で大きな組織改編があって直属の上司が退職させられたとき、近いうちに自分も同じ運命をたどるのかもしれないと、トニーは覚悟しました。そこで、広い人脈に頼るのではなく、すでに質の高い関係を築いていた4人に相談を持ちかけました。すると、たちまち見込みのありそうな求人情報が4件も得られました。「重要なのは、人脈の広さではありませんでした。ふだんから、電話でやりとりしている相手は30人ほどだけです。人数は少ないですが、質の高い人脈なのです」とトニーは言います。

ネットワークの大きさが限られているとき、適切な人脈が築けているかどうかが非常に重要です。研究によれば、質の高い人脈とは、たとえば厳しい締め切りや、大きな失敗、あるいはトニーの例のようにキャリアが脅かされたとき、たがいに相手を本気で心配する、そういう関係です。本心を伝えあい、相手から学び、逆境にも対抗できる人間関係なのです。

私の師であるジェーンは、質の高い人脈を研究する専門家として名高いばかりでなく、それをどのようにして築くのか、身をもって示してくれました。ミシガン大学で教えていた彼女は、同僚との質の高いつながりが、心身の健康や勉学や創造力など、多くの前向きな成果につながることを示してくれました。

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質の高い人脈を築く方法①:相手としっかり向き合う

質の高い人脈を築くには、第一に、相手としっかり向き合わなければいけません。友人のフェイスブックの投稿に「いいね!」したり、リンクトインでの昇進の公表に「コングラチュレーション!」ボタンを押したりするのは、簡単ですが、どう考えてもなんの意味もありません。

「最近、どうですか?」と尋ねるときには、あまり芳しくない近況報告を5分間聴く可能性も覚悟して口を開きましょう。そして、逆に、尋ねられたときには、「元気です」と表面だけの返事をしないように。

ジェーンに初めて「最近、どうですか?」と尋ねられたときのことを、今でもよく覚えています。ただの社交辞令だと思った私は、すかさず「元気です」と答えました。そのときの彼女の反応はといえば、私の両目をしっかり見つめて、「そうじゃなくて、本当に、最近どうしているかを聞いているのですよ」と、さらにはっきりした口調で尋ねたのです。

私の最初の答えでは本物の人間関係を築けないと判断したので、わざわざくり返して尋ねたのです。彼女は、私の人生に何が起きているかを、本気で知ろうとしていました。そして、私は、尊敬する重要人物に心のうちを話すなんて畏れ多い、という気後れをようやく乗り越えたのです。彼女は高名な学者でした(そして、私は学生でした)が、それでも本物のつながりを求めていたのです。