現状は老朽化システムで手一杯

同調査は、IT技術者のニーズは大きいため、「情報処理・通信技術者」として就職する新規学卒者は少子化にかかわらず、緩やかな伸びではあるが増え続けるとも予想している。だが、若者の絶対数が減っていく中でIT分野に就職する新規学卒者が多少増えたぐらいでは、伸びる需要に追い付かないということである。

河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)

IT技術の進歩は速いため、次々と誕生してくる先端技術を扱える人材は常に不足しがちだ。しかも、日本企業には構築から20年以上が経過した老朽化システムを抱えているところが多く、そのメンテナンスや運用に追われている実情もある。既存のIT人材には先端技術を身に付けている余裕のある人が少ないのだ。「IT人材需給に関する調査」が2030年に供給できると見込むIT人材もすべてが「先端IT人材」とはいかない。

調査はいくつかの前提をおいてシミュレーションしているが、どのケースも「従来型IT人材」が相当数を占める結果となっている。金融各社が「先端IT人材」のみ採用したいと考えるのであれば、2030年の不足人数はさらに大きな数字となる。

先端IT人材が銀行に就職する理由はない

もっとも金融業界が「先端IT人材」をどんなに求めようとも、各業種から引く手あまたのIT技術者にすれば、「なぜ銀行や証券会社に就職するのか」という疑問がついて回るだろう。優秀な人材であれば、GAFAなど外国の巨大企業に就職したり、起業したりと選択肢はいくつもある。IT人材に対する日本企業の処遇は世界各国と比べて高くない。日本の金融機関をあえて選ぶという人はそう多くないだろう。

既存技術者のリスキリングによる育成も求められるところだが、十分なIT人材の獲得に失敗し、これまで築き上げてきた「信用力」という資産を失うようなことにでもなれば、日本の金融機関は弱体化する。それは日本経済の衰退と同義である。

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