医療界の欺瞞

現在の厳しい基準を適用すべきなのは、危険因子の多い人です。それなのにすべての人に当てはめようとするところに、私は医療界の欺瞞ぎまんを感じます。

高血圧の専門医が、「緩い基準でも大丈夫です」と言いにくいのは当然です。公に言って、その基準で安心した患者さんが心筋梗塞になったら、責任問題に発展しかねないからです。

今は専門家や政治家、官僚などに対する世間(マスコミ)の目はたいへん厳しく、迂闊なことは言えません。そのため、発言は保身が前提となり、きれい事に偏り、凡庸かつ空疎なものが多くなるのは、致し方ないかもしれません。

なぜ不安を煽るのか

しかし、今の日本高血圧学会が決めている微に入り細を穿うがつような高血圧の基準は、どうでしょう。

高血圧か否かだけでなく、血圧の値によって、「正常血圧」「正常高値血圧」「高値血圧」「I度高血圧」「II度高血圧」「III度高血圧」「(孤立性)収縮期高血圧」に分けているのです(図表1参照)。

「高値血圧」は、いわゆる「血圧高め」で、「正常高値血圧」は、正常だけれど高めですよと、わざわざ心配を誘うような分類になっています(正常なら正常でいいじゃないか!)。

以前は、収縮期血圧120未満を「至適血圧」などと称していたので、自分の血圧をなんとか120に近づけたいと思った人も多かったようです。

「診察室血圧」と「家庭血圧」を分けだしたのも最近で、医者や看護師に計ってもらうと緊張するので、血圧が高めに出る、いわゆる“白衣性高血圧”を考慮したものです。しかし、緊張の度合いも、それによって上がる血圧の幅も人によってちがうのに、一律にプラス5とするのが妥当なのでしょうか。

言葉は悪いですが、この分類に乗じて、製薬会社はどれほどの利益を出したのかと、つい勘繰ってしまいたくなります(もちろん、薬をのんだおかげで、重大な病気を免れた人も、たくさんいると思いますが)。