「育てる」よりも「育つ」土壌を耕すべし
経営者の仕事は後継者を育てることだと言う人は多い。しかし、「そのために何をしていますか?」と聞くと、ビジョンだとかイノベーションだとかグローバルだとか、言葉ばかりが先行したありきたりの「リーダー育成プログラム」に終始している会社が多い。それでもなかなか経営人材は出てこない…、と嘆くのだが、出てこなくて当たり前である。経営人材が「育てられる」ものであれば、スキル育成と同じ方法論で経営者をどんどん輩出できる。英語やITのスキルがある人たちと同じようなペースで、経営人材が増えてしかるべきである。しかし、話が経営者となるとそうは問屋が卸さない。人事部主導で「経営人材を育てるためにこれだけ予算を組んで、これだけ投資をして、こんな育成プログラムをやっています」という会社ほど、経営人材が育たない。手っ取り早く「育てよう」とするあまり、「育つ」土壌を耕すことに目が向いていないのである。
事業再生の仕事をやっていたころ、三枝さんは「あなた自身が十年前にやっていた仕事の広さ、権限というものを、今の十歳若い人たちに与えていますか?」としばしば問うたという。次世代の経営者を育てるというのは、当事者に経験と試行錯誤を積ませる、そのために権限を与えて仕事を任せるしかない。
ここで問題となるのが、権限委譲と一口に言っても、何を「任せる」かである。権限委譲して任せた仕事が「担当者の業務を粛々と…」であれば元も子もない。試行錯誤の場として三枝さんが用意するのは、「創って(開発)、作って(生産)、売る(販売)」という商売丸ごとのユニットだ。「創って作って売る」はあくまでも自己完結的なワンセット、一気通貫になっていなければならない。この3つを分けた瞬間に経営の本質は失われ、担当者の仕事になってしまう。
(次回につづく)