なぜコロナ陽性者に無意味な“カゼ薬”を出すのか
では、コロナに罹った人が医療機関で出されたという“カゼ薬”とはいったい何であろうか。結論から言えば、いわゆる「カゼ」の症状で処方される薬というのは医師によってまちまちだから、それが何かは分からない。ただひとつ確実に言えることは、いかなる薬が処方された場合でも、そのどれも「カゼを早く治すものではない」ということだ。
葛根湯をはじめとした漢方薬を処方する医師もいるが、問題なのは患者さんの訴える症状に合わせて抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、解熱剤や去痰剤といった、それこそ市販の総合感冒薬顔負けのてんこ盛り処方をする医師だ。こういう医師に薬を出されると一回4~5錠は飲まされることになる。しかも、それを一生懸命に飲んだところで市販薬と同様、早く治す効果はまったくないのだ。
重症化リスクのない軽症のコロナ感染者が医療機関で処方された薬というのは、こういった薬であろうことは想像に難くない。市販薬より医療機関で出される薬のほうが強いとかよく効くと思う人も少なくないかもしれないが、それは大きな誤り。幸い大事に至らなかった方も、これらの処方薬のおかげで治ったわけではないのである。
ではなぜコロナが陽性であっても、これらの“カゼ薬”が処方されるのか。それは外来で使いやすい特効薬がいまだに無い現在、こういった薬を処方してお茶を濁すことしかできないのが現状だからだ。コロナがカゼと同じだから“カゼ薬”が処方されたのではなく、使いやすい薬がないから仕方がないというのが実情なのである。もちろん症状がごく軽微ならば、症状を緩和させる薬すら必要ない。
「薬を飲んでも飲まなくても治る」コロナの落とし穴
さて、ここまでお読みになった方の多くは「効くはずもない薬を飲んでも治る。薬を飲まなくても治る。ならば、ますますカゼと同じじゃないか」とよりいっそう強く思われたかもしれない。しかし、そこに大きな落とし穴があるのが、この新型コロナの厄介なところなのだ。
症状が軽重多彩であることは先述した。オミクロン株主体となった昨今は、たしかに昨夏のような勢いで肺炎に移行する人は明らかに減っている。その意味では一歩「カゼ」に近づいたといえるかもしれない。
しかし今でも変わらずいちばん厄介なのは、その感染性の強さだ。もちろん、いわゆる「カゼ」もウイルス感染症だから人から人へと伝播してゆく。しかし新型コロナのそれは、「カゼ」の比ではないのだ。
空気感染だから直接飛沫を浴びなくても、互いにマスクをしていても移ってしまう。高齢者施設などではフロアが違っても一気に感染が広がってクラスターを形成してしまう。クラスターが生じれば、多くは軽症でもその中の数人は入院を要する容体となる。スタッフにまで広がれば人手不足も深刻になってしまうのだ。従来私たちが扱ってきた「普通のカゼ」ではここまでの事態は起こりえない。