自殺者の約3割が60歳以上の高齢者
高齢になると脳内のセロトニンなどの神経伝達物質が減少するほか、小さな脳梗塞が起こって血流が悪くなるため、うつ病の発症リスクが上がります。また配偶者の死や退職、病気や入院などがきっかけとなり、うつ病を発症することも多くあります。うつ病でもっとも気をつけなければならないのは「自殺」です。
「もう生きていても仕方がない」「死ぬ以外に解決策はない」という極端な思考に陥り、突発的に命を絶ってしまう人が少なくないからです。あまり知られていないことですが、日本は高齢者の自殺が多い国です。日本の自殺者数は長らく3万人を超えていましたが、東日本大震災以降は減少傾向にあり、2021年は2万1000人前後です。そのうち60歳以上の高齢者は7860人と、全体の約3割を占めています。
日本老年医学会では、高齢者の自殺の約7割に、うつ病やうつ状態が関わっていると指摘しています。
高齢者に「元気がなく、表情に乏しい」「人や外界に興味を示さない」「食欲不振や睡眠障害がある」「死を強く願う」といった様子が見られる場合、背景にうつ病がある疑いがあります。早い段階で専門医を受診し治療を急ぐ必要があるでしょう。
生きがいを失い孤独感に苦しむ「超高齢世代」の現実
さらにTさんのように身体的に健康で、うつ病でないことがはっきりしている高齢者でも、「生きていたくない」と思ってしまう人は後を絶ちません。これには、やはり「生きがいの喪失」という高齢期特有の問題が深く関係しているように思われます。
あくまでも私の印象ですが、「死にたい」ともらす高齢者には女性が多いと感じます。そもそも日本の超高齢世代は女性の割合が高いですし、この世代の女性は家庭を守り、家族の世話に生きがいを感じてきた人が大半です。しかし子供が成長して独立し、伴侶も亡くなるような年代になると、以前のように家族を支えているというやりがい感、達成感はほとんど得られなくなってしまいます。
また男性にも共通することですが、性格的に几帳面で、現役時代には高い地位や役職につき、充実した生活を送っていた人ほど、人生の最盛期の自分と老いた自分との落差を大きく感じてしまい、悲観的になる傾向もあるようです。今後は高齢期の心身の変化、社会的環境の変化にうまく適応しながら、新たな生きがいを得られるような高齢者支援がますます必要になるはずです。