日本は世界有数の長寿国である。だが、それは幸せにつながっているとは限らない。臨床内科認定医の杉浦敏之さんは「高齢者の患者には『もう生きていたくない』『死んでしまいたい』と話す人が少なくない。『長寿は美徳』という考え方はもう通用しない」という――。(第1回)

※本稿は、杉浦敏之『死ねない老人』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

テーブルに伏せる高齢の女性
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100歳以上の高齢者は9万人いる

日本は世界に冠たる長寿国です。2022年版として発表されたWHO(世界保健機関)の世界保健統計によると、WHOに加盟する194の国と地域のうち、世界一の長寿国は84.3歳の日本です。この調査が始まって以来、日本は国別の平均寿命で20年以上にわたり、ずっと上位に入り続けています。

ちなみに平均寿命の2位は83.4歳のスイス、3位は83.3歳の韓国です。先進国のなかでもイギリスの平均寿命は81.4歳、アメリカは78.5歳ですから、両国の国民より日本人は平均して3~6年、長く生きていることになります。

この調査で平均寿命がもっとも短いのは、アフリカのレソトで50.7歳。この国の人々に比べれば、現代の日本人は年数にして約34年もの長い人生を送ることになります。日本ではレソトの平均寿命の倍以上、100歳を超えて生きる人(百寿者)も多数います。1963年には153人だった国内の百寿者は1990年代あたりから急増し、2022年には約9万人という数になりました。

これまで毎年9月の敬老の日には、100歳の人に長寿祝いとして総理大臣から銀杯が贈られてきましたが、2016年度はとうとうこの銀杯が純銀製から銀メッキ製に変更になりました。あまりにも人数が多いので、経費削減の対象になったのです。こうした長寿国・日本のイメージは世界的にも定着し、長寿を支えるヘルシーフードとして日本食は各国でブームになっています。