「買うから上がる、上がるから買う」を繰り返し…

それに支えられて、創業者のサム・バンクマンフリード氏はFTXから自身が所有するアラメダ・リサーチに融資を行った。こうしてバンクマンフリード氏は仮想通貨関連ビジネスを急拡大した。過度な期待によってFTTは上昇し、バンクマンフリード氏の富も増大した。

ブルームバーグによると一時、同氏の資産総額は260億ドル(1ドル=140円換算で3兆6000億円)に達した。世界的な大手投資ファンド、年金基金などがその成長の恩恵に浴しようとし、FTXに出資した。

世界経済のデジタル化が加速する中で仮想通貨やNFTなどの価値上昇期待はさらに高まり、FTXの成長期待も追加的に高まった。買うから上がる、上がるから買うという熱狂の高まりに支えられてバンクマンフリード氏は仮想通貨業界の寵児として多くの注目を集めた。神話とでもいうべき過剰な成長期待の高まりは、多くのバブルに共通する。

利上げ、ガバナンス不備で事業が一気に悪化

しかし、高成長が永久に続くことは考えづらい。2021年11月末、仮想通貨市場は転機を迎えた。FRBは、物価上昇が一時的という見方が誤っていたことを認めた。それ以降、仮想通貨市場の調整圧力が高まった。さらに2022年5月にFRBは、インフレ鎮静化のため景気にブレーキをかけることを明言した。その結果、米国の金利上昇懸念が一段と高まった。5月には、“テラUSD”など価値が一定と考えられた仮想通貨(ステーブルコイン)が急落した。

その後、FRBによる“3倍速”の利上げによって、仮想通貨市場全体がより強い調整圧力にさらされた。FTTの価値も下落した。その結果、キャッシュの確保よりも、FTTの成長期待に依存してきたバンクマンフリード氏の資金繰りが行き詰まり始めた。ガバナンス、顧客資金の管理体制などへの懸念も一段と高まり、連鎖反応のように事業運営体制は悪化した。

ライバル企業であった“バイナンス”は救済合併を見送った。その根底にはFTXの事業内容悪化以上に、今後のバイナンス自身の存続に対する危機感の高まりがあったのではないか。こうして11月11日、FTXは“米連邦破産法11条(チャプター11、わが国の民事再生法に相当)”の適用を申請した。