社会で生きる術を身に付けろ、野球の技術は助けに……

「僕は5年間、プロの独立リーグにいて、引退して社会に出た時のつらさを感じました。生きていくには好きでもないこともやらなきゃいけないし、生活力がないと、と痛感したんで」

つまり、社会で生きる術を身に付けろ、野球の技術は助けにならない、ということだ。

清野が部員に身に付けてほしいのは自炊スキルだ。部員の3分の2ほどが入れる野球部の寮があるが、4年になったら退寮する。ひとり暮らしをさせて自活を学ぶためだ。

写真提供=松本大学野球部
松本大学野球部のみなさん

「プロ野球選手なんて普通はなれない。うちの場合、8、9割が就職です。野球を離れた後の人生のほうがはるかに長いので、そこで通用しないと意味がない。生きるためには“食べる”が基本。アルバイトもしたい子にはさせます。レギュラー選手もバイトしていますよ。居酒屋、コンビニ、ラーメン屋。やる子は全部、自己管理できる。野球も自活もどっちもやれと言っています」

かつては大学の強化部でアルバイトは禁止で、寮も最後までいられたが、野球しかやってない学生はコミュニティが狭くなる傾向があった。

そこで、部員に行動の自由を与えつつ、一方では自分で責任をとるという方針に変更した。すると、不思議なことに野球部の成績も上向きだしたという。やらせる野球でなく、自主的にやる野球。それにより、自分の頭を使って野球にも励むようになったのだ。

松本大は朝と夕方に全体練習をする。1人あたり3本程度のシートノックは自分の守備の完成度を披露する場。基本の練習やレベルアップは自分でやっておいて、というのが基本方針だ。ここも大人扱いをして自主練を促すわけだ。

「テクニックって自分でつかんだ感覚でしか身につきません。こうやって打てといっても監督は責任を取れないので。自分でコツをつかむのは自分で時間を費やすしかないと。自主練をやる子は増えました」