台湾の蕭美琴駐米代表はこれに反応したとみられる形でTwitter上で、「台湾は多くの製品を売っているが、自由と民主主義は売り物ではない。私たちの将来をめぐる提案はいずれも、平和的かつ強制的ではなく、そして台湾の人々の民主的な願いを尊重する形で決定されるべきである」と牽制している。

マスク氏のこれら独特な発言を念頭に、ウクライナの一部地域における衛星サービスの一時遮断についても臆測が広がった。一部の国においては、ウクライナ政府との関係が冷え込んだことから意図的に遮断に踏み切ったと取れる報道もあった。

カリスマCEOの強さと危うさ

マスク氏が技術で世界を変え、人類を前進させていることに疑いはないだろう。

テスラはEVを身近にし、夢物語だった自動運転を着実に実用化へ近づけている。スペースXは個人が月旅行に出かける時代を切り拓きつつある。地下トンネルで渋滞を回避したいという冗談から生まれたザ・ボーリング・カンパニーは、ラスベガスの地下に本物のテスト用地下自動車道を開通させた。

常識を超えた発想で未来を引き寄せるカリスマCEOには、独断で企業を率いる強力なリーダーシップが求められる。社会的な価値観と相違をものともせず、自らの信念を貫くタフさこそが強みとなるだろう。

イーロン・マスク氏(写真=Ministério Das Comunicações/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

だが、その影響は社内にとどまらず、国際社会にまで波及している。そこには彼の言動に左右される危うさがある。スターリンクのインフラに依存せざるを得ないウクライナ軍は、マスク氏の衛星なしには混乱状態に陥るまでに依存性を高めている。

クリミアをめぐる住民投票案や台湾情勢についても、独特な価値観に基づく発言を繰り出すマスク氏。おそらく政治情勢に深入りする意図はなく、独自の正義を世に示しているだけなのだろう。だが、発言の対象となった各国の政府が不快感を示すなど、巨大インフラを掌握するCEOの発言が世界を揺るがしていることは明らかだ。

「マスク依存」を深める世界の危険性

こうした危うさは、マスク氏のTwitter社の買収にも当てはまる。独自の価値観による「正義」が導入されればどうなるだろうか。仮にだが買収完了後、独自の発言規制やプライバシーに影響する機能が実装されれば、日本のユーザーにおいても影響は免れないだろう。

また、ワシントンポスト紙はマスク氏本人による発言を念頭に、Twitterは「事実上の街の公共広場」であり、マスク氏はいまやその市長になったのだと指摘している。Twitterの崩壊が、民主主義にとって世界規模の脅威になり得る恐れもある。

個人への影響に目を移せば、スターリンクは月額1万数千円という価格であるため、通常4~5千円程度する通常のネットサービスから乗り換え、災害対策を兼ねてメイン回線にすることも不可能ではない。しかし、通信網の寸断に強い反面、うつり気なCEOによるサービスという別のリスクを抱えることになる。

テクノロジーで世界を変革する男、イーロン・マスク。技術の進歩を数十年加速させる功績の一方で、気まぐれな言動が与える影響は年を追うごとに大きくなっている。一人のカリスマに依存する世界が、もろく、危ういことを彼自身が教えてくれている。

関連記事
1230kmのパイプラインも作ったが…ロシア依存だったドイツが超強気に急変した本当の理由
「スティーブ・ジョブズは治療可能な病で死亡した」世界一の大富豪が手術よりコーヒー浣腸を選んだワケ
「どんな人なのかが一発でわかる」銀座のママが初対面で必ず確認する"身体の部位"
「間違えたんだから、責任を取れ」オペレーターに詰め寄るモンスター客に上司が放った"爽快なひと言"
ツイッター担当者はいないけれど…象印が好感度を爆上がりさせた「2年越しのリプライ」という神対応