同時にマスク氏はウクライナには大量の受信ディッシュを送っており、病院や軍事拠点など重要施設に配備されている。ほか、市民も衛星通信経由のWi-Fiを利用しネットを再開することが可能となった。

スターリンクが戦局に大きな影響を与えたと指摘する報道もある。ウクライナ軍はロシアによる2014年のクリミア侵攻を契機として、攻撃・防御システムのIT化に力を入れてきた。現在はGIS Arta(ジーアイエス・アルタ)と呼ばれるシステムが各部隊に配備されており、ネットを通じて現在地や攻撃能力などの情報を常時共有しあっている。

英タイムズ紙の5月の報道によると、従来の常識では射撃命令から実際の攻撃までには部隊間の調整が必要であり、20分程度の時差を生じていた。だが、GIS Artaが部隊の展開状況に応じて最適な攻撃対象を自動で割り振ることで、30秒から1分程度での攻撃が可能となったという。これを支えているのがスターリンクによる通信インフラだ。

アメリカ国防契約管理局のトレント・テレンコ氏は5月、ツイートを通じ、「ウクライナの『GIS Art for Artillery(GIS Artaの別称)』アプリはスターリンクと組み合わさることで、アメリカ軍の一般的な砲術指揮統制よりもかなり優れたものをウクライナ軍にもたらした」と指摘している。氏はまた、「ウクライナ戦争は初のスターリンク戦争」だとも述べる。

陸軍
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ネット遮断でウクライナ軍は大混乱

ところが、その後の形勢不利を経て反転攻勢に入った10月、ウクライナ軍を予期せぬ事態が襲うようになる。ロシア支配地域の奪還を進める一部部隊のあいだで、通信の途絶が報告されるようになったのだ。勢いに乗っていたウクライナ軍は、大混乱に陥った。

英フィナンシャル・タイムズ紙は10月8日、ウクライナ軍関係者および兵士らの話として、領土解放を進める最前線でスターリンクの通信機器に障害が発生し、作戦に支障をきたしていると報じた。

記事によるとウクライナ政府高官は、過去数週間でウクライナ軍の一部部隊が「壊滅的な」通信障害に陥っていると述べたという。同紙は首都キーウの別の当局者の話として、軍のヘルプラインに兵士たちから「パニック状態の電話」が相次いでいるとも報じている。

通信途絶は4~5の特定地域で発生しており、多くはロシア占領地域との境界上となっている。

マスク氏が意図的に遮断との見解も

サービス途絶の原因は何か。最も単純な仮説として、ウクライナ軍の領土奪還の勢いが速く、スターリンク側のサービス対象地域の更新が追いつかなかった可能性が指摘されている。スペースX社はロシア占領下に落ちたエリアを通信提供エリア外としており、これはロシア軍に利用されるのを防ぐためだとみられる。