「そうしてカイゼンしてできたマニュアルがまたスタンダードになる。花見でもトヨタのそれは前年よりも、どこかよくなっています。ただし、予算はほぼ同じですから、担当者はビールをシャンパンにするといった金がかかるカイゼンはできません。ビールの半分を酎ハイにして、お金を浮かせて、それでシャンパンでなくスパークリングワインを2本買うといったカイゼンを考えるのです。

花見の幹事をすることは仕事の仕方を覚えることでもあります。PDCAをSDCAにするのは会議でも変わりありません。

また、花見では毎年、何らかのチャレンジが期待されます。完璧にこなすとは前の年と同じ花見をやるのではなく、どこかにカイゼンが必要なのです。もちろん、チャレンジが失敗したからといって責められることはありません。記録に残るだけです。

幹事経験者は最後にひとこと付け加えました。

「花見の幹事が完璧にできるやつは一事が万事ですから、ほぼ出世してます」

「エレベーター打ち合わせ」は頻繁に

トヨタでは会議は時間、場所などははっきりと決めますが、簡単な打ち合わせは場所、時間を選ばずつねに行われているようです。昔は決裁をもらうのに、会社の駐車場で幹部が出勤してくるのを待ち構えて、駐車場からエレベーターのなか、執務室までの移動中に話を聞いてもらった人が何人もいたそうです。今でもトヨタ生産方式を広める部署・生産調査部では、「30秒打ち合わせをよくやっています」とのこと。

ある幹部によると「私の上司が社内を移動するのにエレベーターに乗るでしょう。その時を見計らって一緒に乗って、エレベーターが到着階に行くまでの間に相談します。いかに短くまとめて要点を絞るかですね。30秒以内でやります。相談したいことを絞り込めば30秒以内で説明して、意志決定をもらえることはできるんですよ。これはわれわれにとって非常にいいトレーニングです。

相談したことの例ですか。例えば、カイゼンの方向性ですね。『経理のカイゼンで、こういう問題があって、その問題に対してこういう対策でいこうと思いますがアドバイスいただけませんか』

すると、上司は『その対策でいいよ。ただ、周知徹底させてね』といったことを答えます。これで30秒です。

カイゼンの進行を報告する定例の会議はあるんですが、カイゼンは日々進むから、迷ったときにはやっぱり相談します。エレベーター打ち合わせでは資料も何も持ちません」