親の成功体験が子供を苦しめる
なぜ、親は暴走してしまうのか。
実は親の子供時代が影を潜めていることが多い。以前、私が担当したご家庭にこんなことがあった。その家は代々医者の家系で、父親も医者だった。しかし、父親は大学受験で思うような結果を出さず、自分の出身大学にコンプレックスを抱いていた。わが子には自分と同じような思いはさせたくない。それでも自分がなんとか医者になれたのは、親から厳しくされていたからだ。だから、自分も厳しくしなければいけない。
そこから父親の行き過ぎた受験指導が始まった。「あれをやれ! これをやれ!」「なんでこんな問題が解けないんだ!」、まさに先に挙げたような暴言の連発。しかし、父親が厳しくすればするほど、子供は無気力に。
「このままでは息子さんが勉強嫌いになってしまいますよ」と行き過ぎた勉強をやめるように促しても聞き耳を持たず。それでも、なんとかゴリ押しで難関中学に合格した。
ところが、入ってからまったく勉強をしなくなる。そのうち親よりも身体が大きくなり、親の発言に対して反抗するようになった。中学受験では親に従順だった子が、まるで別人のように変わった。家の中で金属バットを振り回すことさえあった。もはや親子の関係は修復不能な状態にまで悪化してしまったのだ。
一方、同じように厳しい指導をしていた家庭が、勉強のやり方を変えたことで改善できたケースもある。やはりその父親も子供の頃に親から厳しく育てられたという。子供の学習スケジュールをエクセルに細かく入力し、その通りに進まないと「こんな問題にいつまで時間をかけているんだ!」と叱る。しかし、その勉強量はあきらかにやらせすぎ。そこで、「このままでは息子さんが潰れてしまいますよ」と忠告した。はじめはなかなか耳を貸してくれなかったが、子供がだんだん元気がなくなっていることに気づき、われに返った。
それから、学習スケジュールを父親一人で決めずに、子供の意見も聞くようになった。また、それまでは「受験生なのだからこのくらいできて当たり前」と思うことをやめ、子供なりに頑張っていることを認めるようなった。
学習スケジュールに余裕を持たせたことで、じっくり問題に向き合えるようになり、解く楽しみを味わえるようになったからだろう。みるみると成績が上がり、第一志望だった難関校に合格。現在も上位成績をキープしているという。
今回、両者の運命を分けたのは、手綱を握る親が第三者の声を素直に聞くことができたかどうかだ。中学受験は6年生の2月の時点の学力で合否が決まる。自分でスケジュールを決め、それを実行できる年齢には達していないため、親がある程度は引っ張っていかなければならない部分はある。しかし、子供のペースを無視して無理やり引っ張ってしまうと、子供は息切れをしてしまう。そのさじ加減は本当に難しい。だからこそ、第三者の声が必要だと感じている。