「安全に対して鈍感な人が少なくない」

一方で、10万人もの市民が自発的に集まったイベントでの事故を、行政のせいにするのは無理があるのではないかという指摘もある。

危機管理専門家である、大韓民国産業現場教授団チェ・ミョンギ氏は韓国のニュース専門放送局YTNの取材に対しこのように指摘した。

「まず一つに、危険に対し盲目だったのではないか。事故が起こりやすい状況だったにもかかわらずあまりにも気づかなさすぎた。第2に、われわれの社会があまりにも危険と密接に関わっている。地下鉄の乗り換えだけでも今回の事故と類似する場合が非常に多い。人がひしめく状態で移動をしたり、そのまま押して進んだりすることにあまりに体が慣れすぎている。安全教育が求められる。第3に、まさか事故が起きるだなんてという意識があったのだろう。実際に1000人以上が集まれば統制や誘導が必要だ」(筆者訳)

実際に韓国では地震、津波、噴火などの自然災害がないため、普段から危機管理意識が薄いという指摘をする人も多い。とある20代韓国人女性は「韓国では安全に対して鈍感な人が少なくない」と語る。

今回の事故をリアルタイムで配信していたユーチューバーの動画では、梨泰院駅を降りて約10分で街の様子が豹変ひょうへんするさまが映し出されている。冒頭からすでに身動きが取れない状況にもかかわらず、映像からは危機を予測できていた人が極めて少なかったことがうかがえる。

11月5日までは国家追悼期間に

韓国内ではすでに2009年に圧死事故の可能性についての研究結果が出ている。

研究では梨泰院と類似する道幅6mと長さ20mの空間を基にシミュレーションを行った結果、この面積での通行は700人までが限界であり、800人を超えると急激に人の流れが止まることがわかった。梨泰院では800人から900人以上いたと推測される。

研究を行った国立金烏工科大学校パク・チュニョン教授は基準密度を超えると予測するならばそこに近づいてはならず、すでに巻き込まれてしまっているならば近くの店や建物に入るべきであり、「足が浮いた段階ではすでに遅い」と指摘した。

この知識がいち早く一般に普及していればと悔やまれる。

いずれにしろ、今回のような事故を防ぐにはどのような統制と導線が必要であったか、分析とともに予防措置が問われることだろう。

韓国政府は梨泰院が属する龍山区を特別災難地域に指定し、11月5日までを国家追悼期間に定めた。一帯の店舗は31日から再開したとあるが、休店も相次いでいるという。梨泰院がかつての活気を取り戻すのはいつになるだろうか。

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